午前4時にパリの夜は明ける (2022):映画短評
午前4時にパリの夜は明ける (2022)ライター3人の平均評価: 4
80年代も今も、巴里の空の下セーヌは流れる
社会党ミッテランが大統領になった1981.5.10を起点に、84年と88年へ至る市井のパリ模様。ミカエル・アース(75年生)には少年期の原風景に当たるはずだが、監督を仮託したようなキャラクターが出てこないのが面白い。あくまでその時代を背景に二世代の群像を、セットとロケーション、アーカイヴの融合で描く試み。
C・ゲンズブールやE・ベアールの現在進行形の魅力的な姿が「当時/今」の重層性を象徴するようだ。ロメール『満月の夜』&リヴェット『北の橋』のパスカル・オジェをめぐる喪失感の描き方など実にアース的。80sオマージュでは『愛さずにいられない』(シャルロットのパートナーのY・アタル出演)がツボ!
泣き虫シャルロット
舞台は1981年から7年間。現実ではその間『なまいきシャルロット』を演じたシャルロット・ゲンズブールが2児の母を演じ、同じ時代を駆け抜けたエマニュエル・ベアール演じるラジオDJと意気投合。そんな設定だけでも感慨深いが、喪失感を抱いた人々を温かい眼差しで描くミカエル・アース監督らしさ全開。シングルマザーとなったヒロインの新たな人生が綴られていく。劇中『バーディ』を観に来て、偶然観るのが『満月の夜』。世代的にアース監督のエリック・ロメール監督リスペクトと思いきや、じつは主演女優パスカル・オジェの方。『北の橋』も含め、彼女の姿が家出少女・タルラのキャラに投影されている。
普通の人々の生活を同じ高さの目線で見つめる
ごく普通に生活をしていても、人間ならば誰にだって葛藤や思わぬ出来事があるもの。同時にちょっとした幸せな瞬間もあるし、悲しみも時間が過ぎる中で少しずつ乗り越えていったりする。80年代のパリを舞台にしたこの映画は、シングルマザーとなった主人公エリザベートとティーンの子供たちのそんな姿を、数年をかけ、ゆったりと見つめていく。夫に出て行かれたエリザベートの絶望と不安はしっかり描かれるものの、養育費も払わない夫は映画に一切出てこず、彼女が新たな毎日をどう生きていくのかにフォーカス。子供たちのキャラクターもよく書かれているし、彼らと母との関係も自然。人と人のつながりを優しい目線で見つめる美しい作品。