コンペティション (2021):映画短評
コンペティション (2021)ライター4人の平均評価: 3.5
国際長編部門/映画業界あるある(あるかも)残酷物語
製薬会社の老CEOのひと言から始まる映画業界戯画。ハリウッドの裏側をアイロニカルに抉る系譜はひとつの定番だが、こちらは拝金主義や商業主義の向こうにある「尊敬されたい」との俗情と結託するのがアートハウス系映画というヨーロッパ的視座。全体にはセレブ風刺の色合いが強く、その意味ではR・オストルンド(特に『ザ・スクエア』)にも近い。
悪ノリの数々もリアルゾーンの端っこ辺りにとどめたバランスが見事。映画祭イジりは『Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!』も連想。『パラレル・マザーズ』と同年のヴェネチア映画祭コンペに出た作品だが、アルモドバル組ではないところでペネロペ&バンデラスの本格初共演が果たされるとは!
芸術の名を借りた自己顕示欲と権威主義を笑い飛ばすコメディ
年老いて地位と財産だけでなく名誉も欲しくなった高齢の大富豪が「名作映画」のプロデュースを企画し、映画賞を総なめにする気鋭の女性監督と見栄っ張りの世界的な映画スター、気難しい舞台の大御所俳優を集めたところ、それぞれの強烈なエゴが激しくぶつかる修羅場が繰り広げられていく。いわば、我こそが「超一流」と自負する俗物たちによる意地の張り合いを描いたブラック・コメディ。芸術の名を借りた人間の自己顕示欲や権威主義を痛烈に笑い飛ばす。アルモドヴァル的な人間風刺のシニカルさはスペイン映画ならではか。シャレにならない結末へと突き進んでいく後半の展開は、さすが『笑う故郷』の監督コンビである。
ときに鼻につくシニカルな笑い
奇抜な髪型の天才監督の下、人気スターと大御所舞台俳優のエゴとプライドがぶつかり合うバックステージものだが、舞台がほぼ監督の自宅ということやペネロペ、バンデラス、マルティネスの肩の力が抜けた芝居が見られることで、かなり舞台劇に近いノリ。無知すぎる大富豪の思いつきに、タイトルにも関連する映画祭出品狙いの映画作り、衝撃のクライマックスに至るまで、『笑う故郷』の監督コンビらしいシニカルな笑いで、映画業界を皮肉りまくる。吊り下げられた岩の下での読み合わせやマイクに囲まれたキスシーンのASMRなど、スタイリッシュなカットにも目を奪われるが、どこか観客を試しているところが鼻についたりもする。
痛快でデリシャスな業界風刺コメディ
映画作りの裏にあるエゴを描く痛快な風刺コメディ。名声を後世に残したい大金持ちが製作する映画に集まったのは、奇才と呼ばれる女優監督、地道な演技派の役者、人気はあるがやや不真面目なスター。強烈な個性を持ち、アプローチも違うこれらの人たちがぶつかり合う状況は、誇張されているにせよ、きっと実際の現場で見かけられることなのだろう。そんな自虐的なコメディを、大胆かつ遊び心たっぷりにやってみせるクルス、バンデラス、マルティネスに大拍手。ダークなクライマックスの後にまだひとひねり用意されている脚本は実にすばらしく、映画が終わってからもその後の展開に思いをめぐらせてしまった。実に美味しい傑作。