To Leslie トゥ・レスリー (2022):映画短評
To Leslie トゥ・レスリー (2022)ライター4人の平均評価: 3.8
底から這い上がる女性の、味わい深い物語
A・ライズボローのオスカー主演女優賞ノミネートで注目された作品だが、見れば納得。アルコール依存症から抜け出せず、息子との信頼も築けないダメ母を、息苦しいほどの生々しさとともに体現する。
物語は、そんな主人公の再生を緩やかに見つめたもの。彼女の危うさを引き受ける、モーテルの気のいい男たちとの交流が温かい。テキサスの街道沿いの風景が、ときにのどかに、ときに寂しく、ときに美しくとらえられ、生活感を漂わせる。
母と息子の葛藤のドラマも印象深いが、息子の心象も変化もドラマの肝に。結末近くのダイナーのシーンは音楽もなく、その静けさゆえに、母と子の心の揺れが染み渡る。
どん底からの再起を演じるアンドレア・ライズボローが圧巻!
かつて宝くじに高額当選したシングルマザー。その6年後に全財産を使い果たしたアル中の彼女は、住む場所を追われてホームレスとなり、頼った息子にも迷惑をかけ、仕方なく故郷の田舎町へ戻って立ち直らんとする。あえて、過去の出来事を具体的に説明せず、観客の想像に任せる脚本が秀逸。無教養ゆえに愚かで生活力に乏しい彼女が、大金を手にしたことでどんな目に遭ったのかは想像に難くないだろう。そして今、自己嫌悪で自暴自棄になった彼女を、狭い地域社会の人々が一方的に断罪して更に追いつめる。主人公の苦闘と再起を演じるアンドレア・ライズボローが圧巻。過ちを責めるよりも、根気よく手を差し伸べることの大切さを痛感する。
真ん中くらいに、人間の感情が押し寄せてくる最上級の演技が
ありがちな物語なのに、感情がひしひしと伝わる演出&演技が、思いもよらぬ優しい後味を導く…そんな作品。
主人公は、どう見てもダメダメなキャラ。大金を一気に使い果たし、幼い息子も捨て、人生やり直そうとしても空回りの連続。よくあるパターンでは、そこに至るエピソードや背景もきっちり描き、「それでも同情」という余地を与えるが、本作はあえて現在進行形のドラマを重視。そこから主人公の本質を浮き彫りにし、じわじわ感情移入させる離れ業を成功させた。中盤、バーでの長回しのシーンで、主演A・ライズボローが表情の変化だけで、役の過去から未来を訴えてきて、本能的に心が震えた。
息子の視点で観れば、さらに別方向の感動も。
恐れを知らない、体当たりの演技
それまでまるで名前が出なかったのにサプライズでオスカー候補入りしたおかげで作品の知名度が急上昇したのはいいが、キャンペーンが問題視されてややミソがつくことにもなってしまった。しかし、アンドレア・ライズボローの演技はまさに体当たりで恐れを知らず、名俳優らがこぞって彼女を推したのも納得。人生で間違った選択ばかりしてきた人が立ち直ろうとするストーリーはとくに新しくはなく、最初から最後までほぼすべてのシーンに出て映画を引っ張っていく彼女こそ、見るべき理由。撮影監督ラーキン・サイプル(『エブリシング・エブリウェア〜』)は、35mmのフィルムを使い、良い感じに昔のアメリカ的なビジュアルを作り上げた。