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インスペクション ここで生きる (2022):映画短評

インスペクション ここで生きる (2022)

2023年8月4日公開 95分

インスペクション ここで生きる
(C) 2022 Oorah Productions LLC.All Rights Reserved.

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.5

相馬 学

軍隊という封建を生き抜いた、革新者の心持ち

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 陽性の『フルメタル・ジャケット』か、陰性の『愛と青春の旅立ち』か。いずれにしても、封建的な軍や家族に属したゲイの男性が、どう生き抜くかという点で、強烈な吸引力がある。

 100分に満たない作品だが、胸をかきむしられるような描写は多い。同性愛者であることがバレるシャワー室での嘲笑や、仲間から受ける心ないイジメ。信仰への迫害も痛々しく、差別の残酷さを浮き彫りにする描写に容赦はない。

 とはいえ、差別に屈しない主人公の成長劇には、ある種の根性モノの面白さも宿る。監督の実体験に基づいたドラマだが、絶望だらけの世にも、かすかではあるが希望が見える、そんなリアルに心を奪われた。良作。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

キャラクターにもストーリーにもリアリティがある

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

エレガンス・ブラットン監督はこの映画を「フルメタル・ジャケット」と「ムーンライト」を混ぜたような感じと表現しているが、まさにその通り。軍隊の過酷さをありありと描きつつ(ブラットンの長編監督デビュー作はドキュメンタリーだった)、若い黒人青年の心を間近から見つめていくのだ。自らの経験にもとづいた話だけあり、キャラクターにも、ストーリーにもリアリティがある。ハリウッドエンディングとはほど遠いラストもそう。苦しめられ、差別されても、自分を知っていて曲げず、威厳を失わない主人公フレンチには強く思い入れできる。彼の感情を目の演技でパワフルに表現するジェレミー・ポープは、今後ぜひ注目したい俳優。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

アニマル・コレクティヴの音楽が主人公の心情に寄り添う

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 冒頭から音楽が印象的で、誰がやっているのかと思ったら、米の人気バンド、アニマル・コレクティヴ。監督が彼らの大ファンで依頼し、"主人公が現実と思っていることと実際に起きていることの境界線を曖昧にする音楽"を求めたと発言。バンドのエイヴィ・テアは、"強さともろさが同居する感覚を想起させる音"を目指したと語っている。

 ゲイであることを母親に拒否され、ホームレス生活をしていたアフリカ系青年が、海兵隊に志願し、そこでも差別や嫌がらせにあうが、周囲に否定されても、自分が自分らしくあることを諦めない。彼の内面を反映して世界の色彩は常に暗く、単純な結末は訪れないが、彼の意思の強さが希望を感じさせる。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

監督が経験で描いただけあり、軍隊でゲイであることが生々しすぎ

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

『フルメタル・ジャケット』の記憶もフラッシュバックする海兵隊での訓練風景に、主人公がゲイである事実を隠す試練、さらにゲイゆえの妄想が上塗りされ、さながら地獄の日々だが、監督自身の体験を基にしただけあって、ポイントで希望や安らぎが頭をもたげる。そのバランスが美しい。

軍隊以上に苛烈なのは母と息子の関係で、表向きでは愛してると言いつつ、その素顔を断固として受け入れようとしない母。些細な言動が許しがたいレベルだったりするので、息子の悲哀に何度も胸が痛くなる。

差別意識の不当さを伝えつつ、偏見を持つ周囲にどう対処するかの示唆にも富み、自分の人生に誇りを持って生きたい人に最適な一本なのは間違いない。

この短評にはネタバレを含んでいます
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