コンクリート・ユートピア (2023):映画短評
コンクリート・ユートピア (2023)ライター4人の平均評価: 4
ジャンル映画の公式を高次化していく韓国式エンタメの現在値
いわゆるディザスター映画の定石でいくのかなと思ったら、崩壊した世界でひとつだけマンションが残っていたという「大嘘」をついてワン・シチュエーションをぶっ立てる。そこからはリアリティ重視の演出・描写・小技で詰めていく組み立て方で、これは中々巧い設計だと思った。実質はポスト・アポカリプス映画=終末ものに近く、マンションが『ソンビ』におけるショッピングモールと同じ様な舞台設定になる。サバイバルの拠点であり、最後の砦的な生活の場。そこに「ゴキブリ」と呼ばれたりする外部の人間が襲ってきたり。
このへんのシステム作りはさすが今の韓国映画。制作はクライマックススタジオで、まさに「Netflix劇場版」の趣。
自分だったらどうするか。モラルを問う娯楽スリラー
大災害によってすべてが破壊されたが、自分が住むマンションだけは無事だった。救助が来ることが期待できず、水や食べ物にも限りがある中、避難させてとやって来る外部の人にどう対応するのか。自分たちさえ良ければ良い?それとも困った時はお互いを助け合うべき?この娯楽パニックスリラーはそんなモラルの問いかけをし、観る人それぞれに答を委ねる。さらに、イ・ビョンホンのキャラクター。突然にしてパワーを与えられたら、自分だったらどうなるか。建物の中は平和とほど遠いのに、タイトルで「ユートピア」とうたうのはなんともブラックなユーモア。脇役の住人たちのキャラクターもよく考えられていて信ぴょう性がある。
極限状態を通して今の世界を映し出す。超ヘビー級の傑作
「生きてれば今みたいに仕方ない状況がある」「仕方ないなら何をしてもいいの?」。未曾有の災害に襲われたソウルで、唯一残ったマンション。極限状態の中で、住民代表になった男の指揮のもと、部外者を「ゴキブリ」と呼んで排斥する住民たち。やがて「普通の人たち」が狂気に駆り立てられていく……。パニックスリラー、コメディー、犯罪もの、政治ドラマ、ヒューマンドラマ、さまざまな顔を持つ超ヘビー級の傑作だ。イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨンら、キャストはみんな鬼気迫る演技を見せる。国家の存亡、家父長制の歪み、移民問題、ヒューマニズム、そして人権にも思いを馳せざるを得ない。これは今の世界の縮図だ。
イ・ビョンホンの狂気に注目
ハリウッドでも実績を積みましたが、近年再び母国・韓国に戻って秀作を連発しているイ・ビョンホンの最新作。もはや彼が出ていれば作品のクオリティ保証の様な部分もあるのですが、本作もそれが見事にはまりました。タイトルからしてその響きとは裏腹にデストピアが描かれるであろうことが伺い知れましたが、案の定見事なまでに不穏な映画となっていました。劇中の展開について、自分だったらどうするかいろいろ考えてしまいます。日本も地震大国ですので他人事とも思えません。果たして日本ではどのような反応が見られるのでしょうか?