ハロルド・フライのまさかの旅立ち (2022):映画短評
ハロルド・フライのまさかの旅立ち (2022)ライター2人の平均評価: 3.5
英国の田舎道を歩き続けるロードムービー
緑の野原がどこまでもなだらかに広がる英国の田舎道を、老いた男が自分の足で歩き続けるロードムービー。その風景を見ているだけで、穏やかな気持ちになる。その旅は、遠方の友人の病の快復を祈願する巡礼の旅であり、主人公は歩きながら、自分の過去と現在に向き合っていく。その姿からは、その"ただひたすら歩き続けること"こそ、彼がこれまでずっと鍛錬し実践し続けてきたことだということが、静かに伝わってくる。
そんな主人公とその妻を英国のベテラン俳優、『アイリス』のジム・ブロードベントとTV「ダウントン・アビー」のペネロープ・ウィルトンが巧演。2人の息子役をニック・ケイヴの息子、アール・ケイヴが演じている。
熱演だけではない匠の技だからこそ、本物の感動に到達する
800kmといえば、日本では東京から広島くらいの距離。それを定年退職した男が歩き切ろうとする設定は、実話ではないにしろ驚きは大きい。持ってる金銭はわずか。最初から困難エピソード満載で胸が締め付けられる…と思いきや、喜怒哀楽あちこちにシフトして映画らしい盛り上がりも見せていく。その流れが、じつにスムーズ!
ドラマの根本には「誰かの背中を押す言葉」「感謝の心」というテーマがどっしり構え、多くの人が素直に共感しやすい安心設計。その共感度を上げる潤滑油が、ジム・ブロードベントの熟練の妙演で間違いなく、静けさと穏やかさでキャラクターを築き、要所で激情を加えるプロの仕事。その麗しき表現に心の中で嗚咽する。