ソウルの春 (2023):映画短評
ソウルの春 (2023)ライター3人の平均評価: 4
全斗煥時代を巡る韓国、政治の季節ユニバースにハズレなし!
『KCIA 南山の部長たち』の続編の如く1979.10.26の朴正照暗殺を起点とし、韓国現代史の転換点となった「12.12軍事反乱」を描く熱作。のちに激動の80年代韓国を牛耳る全斗煥、軍事クーデターに立ちはだかる張泰玩(映像作品では05年のドラマ『第5共和国』以来の登場か)を始め全員別名義だが、むしろ真実を容赦なく抉る為にフィクションを装った格好だ。
386世代のキム・ソンス監督は張泰玩の実直なヒロイズムを強調しているが、ファン・ジョンミンの芝居が圧巻すぎて独裁を目論む全斗煥の邪悪なカリスマ性の方が際立つのが皮肉か。このあと歴史は『タクシー運転手』や『1987 ある闘いの真実』へ続いていく。
韓国現代史の闇に斬り込む問題作
後の韓国大統領・全斗煥が主導した'79年12月の粛軍クーデターを克明に描き、昨年の韓国映画興収ランキングで首位に輝く歴史ドラマ。一部フィクションが含まれているためか、登場人物の名前は全て偽名。そこがちょっと残念ではあるものの、しかし緊迫感と重厚感に溢れたキム・ソンス監督の演出は圧倒的だ。主演は『アシュラ』に続いてキム監督と組むファン・ジョンミンとチョン・ウソン。中でも、全斗煥をモデルにした保安司令官を演じるファン・ジョンミンのギラギラ感が凄い。前段階となる朴正煕暗殺事件を描いた『KCIA 南山の部長たち』、翌年の光州事件を描いた『タクシー運転手 約束は海を越えて』の間を埋める映画として必見。
史実に忖度ナシで向き合う韓国映画の気概が満ちる
この事件がいかに韓国の歴史に大きな意味をもつのか。全編に満ちる、作り手や演者の渾身の意気込みがそれを代弁する。フィクション部分があるとはいえ、忖度ナシで黒歴史に向き合う姿勢に頭が下がる。
役柄的にも、俳優のイメージにしても、明らかにクーデターを阻止するチョン・ウソンの司令官に肩入れして観てしまい、その分、衝撃や虚しさが倍加されるのは計算どおりだろう。逆に言えば次の独裁者になろうとするファン・ジョンミンの悪役演技が異次元レベル、ということ。
展開的に女性がほとんど出てこないのは必然だが、あえて登場させたキャラが作品のブレーキになっているのは残念。事件を俯瞰するような視点を与えても良かった気が。