Chime (2024):映画短評
Chime (2024)黒沢清✖️吉岡睦雄の相性の良さ
分かりやすい映像ギミックを駆使しているワケではない。カメラアングル、照明、演出等、長年の経験と豊富な映画の知識で得たシンプルな技法を使って、得も言われぬ世界を醸しだす黒沢監督の巧みさは、本作のような実験的な企画でこそ際立つ。普通に思えた日常が、暴力によって突然歪んでいく脅威。その渦に取り込まれるように、抑制していた感情が漏れ出し、他者に狂気を向ける人の心の危うさ。映像や音で恐怖を煽らずとも、ただ人間を描くことが一番怖いことを黒沢監督は知っている。しかも主演は、感情が読みづらい俳優・吉岡睦雄だ。黒沢作品の中に吉岡睦雄が居る。妖気漂うそのショットだけで、ただならぬ作品であることを予感させるのだ。
この短評にはネタバレを含んでいます