異端者の家 (2024):映画短評
異端者の家 (2024)
ライター3人の平均評価: 4
ホラー仕様のヒュー・グラント大先生(64歳)が最高すぎる
ヒュー様、第三の黄金期が完全到来か。初期の美青年からロマコメ期を経て、最近は『パディントン2』や『ウォンカ~』など飛び道具の新境地を開拓。その流れは今回でひとつの完成形に達した。モルモン教徒の女子2人を論破&監禁しようとする博覧強記の異常なオヤジを怪演。彼一流の笑顔&愛嬌が不気味に活かされるのだ!
そして脚本が面白すぎ。ホリーズ「安らぎの世界」→レディオヘッド「クリープ」→ラナ・デル・レイ「ゲット・フリー」の連鎖という有名な音楽ネタも絡めつつ、“反復”との主題で、ゲームの様に空虚で資本主義的なシステムに堕したと宗教を論じるヒュー様の知的パフォーマンスに大笑い。S・サッチャーの反撃も良き!
会話が興味深い、考えさせるホラー
映画前半の会話は、とても興味深い。ふたりの若いシスターはモルモンの教えを信じているが、ミスター・リードは彼女らが太刀打ちできないような知識と教養を持って挑戦してくるのだ。人の良さそうな雰囲気で家に招き入れたと思ったら、少しずつ恐ろしい本性を表し、説得力のある理論を展開し始めるミスター・リードのキャラクターには、ヒュー・グラントの魅力と才能の見せ場がたっぷり。彼が楽しんで演じているのも伝わってくる。そんなふうに心理ゲームとして緊張感を高めていきつつ、後半はよくあるホラーの展開に。フィリップ・メッシーナがデザインを手がけた家も、この映画の重要なキャラクターのひとつ。
物語が何層にも重なって押し寄せる
ヒュー・グラントが巧みに演じるサイコパスの嫌な感じをたっぷり味わうだけで見応え充分だが、実はそれだけではない、物語の重層的な構造が魅力。
監督&脚本は『クワイエット・プレイス』の脚本家コンビ。サイコパスに美少女2人が翻弄されるホラー映画でありつつ、奇妙な構造の家に閉じ込められる密室もので、犯人と犠牲者たちの駆け引きを描く心理ドラマでもある。そのうえ原題『異端者』に相応しく、個別の宗教とは関係なく、人間にとって"祈る"とはどういう行為なのかを真摯に問いかけてくる。そして、それに対する答も示す。撮影は『お嬢さん』のチョン・ジョンフン。最後に現れる光景に胸を突かれる。