EUを離脱しちゃった、英国人気質って何?~映画にみる英国人
EU離脱に自分たちが驚いちゃって再投票を希望した英国人って、いったいどんな人たち? ぜんぜん社会派じゃない英国映画好きの視点から、独断と偏見でこの頃の英国映画にみる英国人気質をチェック!(文/平沢薫)
1:反骨精神旺盛!ビンボー人たちが負けてない!
まず英国人は、権力側から何かを押しつけられるのが嫌い。押し付けられたら負けてはいない。仲間と協力して対抗する。
例えば、英国北部シェフィールドが舞台の『フル・モンティ』(1997)。ロバート・カーライル演じる主人公は失業中、幼い息子の養育費が払えず共同親権を失いそうだが、そんな状況に負けてない。失業中の仲間たちを集め、なんとストリップ・ショーで稼ごうと考える。この仲間たちがハンサムではなく、太ってたり年配だったりするのも、アメリカ産の『マジック・マイク』(2012)とは違うところ。
この"ビンボー人が負けてない映画"を、悲壮にではなく、ユーモアたっぷりに描くのが英国流。英国中部ウォリックシャー出身のケン・ローチ監督はその名手で、マンチェスターで失業中の中年男2人が羊泥棒や芝生売りに四苦八苦する『レイニング・ストーンズ』(1993)から、グラスゴーのチンピラ青年が、ウイスキーの奥深さに目覚めて仲間たちと勝負に出る『天使の分け前』(2012)まで、負けない男たちを撮り続けている。
また、音楽ファンが政府に反抗した実話を描くのが『パイレーツ・ロック』(2009)。1966年の法律では1日に45分しかポップ音楽を流せなかったが、音楽ファンは負けてない。海上の船の海賊放送局から、24時間ロックを流し続けた。ビル・ナイ、リス・エヴァンス、ニック・フロストら、英国の人気男優たちの豪華共演も楽しい。音楽なら、1980年代後半のマンチェスターの音楽シーンを描く『24アワー・パーティ・ピープル』(2002)も、"反ロンドン"で"俺の街が世界一"な英国人気質たっぷり。
2:反骨精神は、子供の頃から!
この反骨精神は、子供時代から。英国映画の子供はいつも仏頂面で、ハリウッド映画の可愛らしい子供とは大違い。
その代表が名作『ケス』(1969)。ヨークシャーの炭鉱町の貧しい家庭の少年ビリーは、家庭でも学校でも孤立しているが、負けてない。食事がなければ配達牛乳を盗み、友人がいなければ鷹の雛を育てる。そして、その鷹が理不尽な暴力によって奪われた時も、絶望はしない。口を結んで、まっすぐな眼差しで世界を見つめ続ける。
'30年代のリバプールで生きる7歳の少年が強い意志とプライドを持ってる『がんばれ、リアム』(2000)、'80年代の英国北部の炭鉱町の11歳の少年が、周囲に笑われても大好きなバレエをやめない『リトル・ダンサー』(2000)でも、少年たちは負けてない。
そんな少年たちが成長すると、一緒に悪いことをするようになる。規則は破るためにあるし、その裏をかいてうまくやれたら、カッコイイ。そんな英国若者気質を描くのが、グラスゴーの若者4人組が大きなドラッグ取引をする『トレインスポッティング』(1996)や、ロンドンの下町の若者4人組が借金返済のため強盗犯グループから現金を奪おうとする『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998)。若者の反抗を描く英国映画はいつもクールでカッコイイ。
3:ヒネったユーモアが大好き!
やっぱりモンティ・パイソンは英国人の心の故郷なのだなあ、と痛感したのは2012年のロンドン・オリンピック閉会式。ここで彼らの映画『モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン』(1979)のエンディング曲「Always Look on the Bright Side of Life(いつも人生の明るい側面を見よう)」が大合唱されたのだ。
このTV「空飛ぶモンティ・パイソン」(1969-1974)などで知られるコメディ集団は、オックスフォード大とケンブリッジ大出身のインテリ揃い。そのギャグは革新的かつ反逆精神旺盛で、ナンセンスも多くちょっとヒネくれている。『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(1974)はアーサー王伝説のパロディ、『モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン』(1979)は聖書のパロディだ。
ちなみにこの英国人のヒネクレたギャグ感覚は、SF分野でも健在。地球滅亡を前にイルカたちが「人間のみなさん、お魚をどうもありがとう」と歌うダグラス・アダムスの70年代のラジオドラマは、マーティン・フリーマン主演の『銀河ヒッチハイク・ガイド』(2005)になったし、TVシリーズなら宇宙船でただひとりの生存者がホログラムを話し相手に地球生還を目指すコメディTVシリーズ「宇宙船レッド・ドワーフ号」(1988-1999)がある。エドガー・ライト監督がSF映画のオマージュ満載で描く『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2013)まで、このコメディ感覚はしっかり受け継がれている。
4:普段は自分の感情を表に出さない
普通の生活を描く映画を見ていると、英国人は自分の気持ちを口に出さない。北西部ランカシャー出身のマイケル・ウィンターボトム監督の『いとしきエブリデイ』(2012)は、8歳から3歳までの実際の4兄妹が出演、刑務所に収監中の父親を訪問しながら暮らす母子家庭の5年間の家族愛を描くが、誰も言葉で愛を語ったりしない。この監督の『ひかりのまち』(1999)でも、ロンドンで暮らす20代の女性が、日常の中でいろんな想いを抱くが、それを口には出さない。
そんな英国人気質をちょっと意地悪な視点から描くのが、北西部サルフォード出身のマイク・リー監督。タクシー運転手一家の家族の気持ちがすれ違う『人生は、時々晴れ』(2002)、女性教師が必死に前向きに生きる『ハッピー・ゴー・ラッキー』(2007)、中流階級の家族友人集団の行動と内心が大違いの『家族の庭』(2010)など、自分の感情や本心を表に出さない英国人気質の困った部分も見えてくる。
5:実は王室や貴族が嫌いじゃない
レスター出身のスティーヴン・フリアーズ監督の『クィーン』(2006)で、ヘレン・ミレンが演じたエリザベス女王の立派なこと。ロンドン出身のトム・フーパー監督の『英国王のスピーチ』(2010)でコリン・ファースが演じたその女王の父親、ジョージ6世の行動の感動的なこと。英国人はきっと王室が好き。そしてTV『ダウントン・アビー』(2010~)で、貴族階級の下世話なスキャンダルと高貴な行動の両方を見るのも大好き。そしてそんな王族や貴族が力を持っていた、かつての大英帝国が大好きなのだ。権力が大嫌いで、貧乏でも負けてないのがカッコイイと思っているのに、王室と貴族が好き。そういう屈折したところがまた、英国人気質なのに違いない。