フォーリング 50年間の想い出 (2020):映画短評
フォーリング 50年間の想い出 (2020)ライター3人の平均評価: 4
親子だから分かり合えると思ったら大間違い
老いた父親と息子の複雑な関係を描く物語は、兄弟に捧げられているのでV・モーテンセン監督の自伝的要素も含まれているのだろう。考えさせられる要素が多い人間ドラマだ。父親は差別主義者のホモフォビアで、人間としても最悪だ。認知機能が低下した彼の記憶混在がフラッシュバックとなり、元から無知な独善主義者だったという事実が明らかになる。愛を伝えることができず、人々から距離を置かれる悲しい老人の行く末は一つしかないのかもしれない。人間同士は理解し合うのが理想とは思うが、気持ちを伝えない人を理解するのは難しい。遺伝子を共有していても所詮は他人だから、親子が分かり合えるというのは幻想に過ぎないとよくわかる。
憎んでも憎み切れない毒親への想い
痴呆症を抱えた偏屈な高齢の父親とゲイの息子の物語。若かりし頃の父親が生まれたばかりの息子に「こんな世界に送り出して悪いな」と不器用そうに微笑みかける冒頭で思わずホロっとさせられるのだが、しかしこの父親というのが時代に取り残された中西部の頑固オヤジで、しかも多様性なんてクソ食らえのセクシストにしてレイシスト。そんな父親に長年振り回され傷つけられてきた息子や親族が、それでもなお家族の絆を手繰り寄せようと模索する。毒親といえども親は親。憎んでも憎み切れない複雑な心情が痛いほど伝わる。これが初監督とは思えぬヴィゴ・モーテンセンの繊細な演出、そして父親役ランス・ヘンリクセンの熱演に感服。
監督ヴィゴ・モーテンセンのまなざしが静かな感動を呼ぶ
決してよい父親やよい夫だったわけではない何かと問題のある人物を、その人物の息子の視点だけでなく、その人物自身の視点も含めて描くところがいい。映画は、老境を迎えて認知症を患うその人物の脳裏に押し寄せる、さまざまな記憶を映し出すのだが、その記憶は苦いものだけではなく、とんでもなく美しいものもある。息子役と監督を兼任するヴィゴ・モーテンセンは、"かつて自分を何度も傷つけた父親"でもある人物を描くときに、彼が見る美しい光景をも含めて描き出すのだ。その監督としてのまなざしが静かな感動を呼ぶ。互いに手放しで認め合うことができない父と息子を、ランス・ヘンリクセンとモーテンセンが演じて魅了する。