ダ・ヴィンチは誰に微笑む (2021):映画短評
ダ・ヴィンチは誰に微笑む (2021)ライター3人の平均評価: 4.3
芸術の真価を置き去りにしたアート・ビジネスの世界
アメリカの田舎の一般家庭に飾られていた1枚の古い肖像画。最初は13万円で売りに出されたその絵が、実はレオナルド・ダ・ヴィンチの手による幻の名画である可能性が高まり、最終的にクリスティーズのオークションで史上最高額の510億円にて競り落とされる。本作はその過程を克明に追うことで、アート・ビジネス業界の奇々怪々を浮き彫りにしていくドキュメンタリー。芸術を投資と見做して多額の資産を注ぎ込み、しかし買った絵画は倉庫にしまって飾りもしないロシアのオリガルヒ。芸術を次なる国家成長戦略の礎とし、絵画を外交ビジネスの道具に利用するサウジアラビアの王子。いったい芸術の価値とは何なのだろう?と考えさせられる。
「価値」をめぐるドタバタ珍喜劇
『ダ・ヴィンチ・コード』と、『皮膚を売った男』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』圏を繋ぐ主題と言うべきか。我々が抱え持つ虚栄の象徴でもあるアートと資本の皮肉な関係。このドキュメンタリーも数奇な運命が連鎖するミステリー&ブラックコメディの様に、美術マーケットに渦巻くカネと欲望、奇妙なポピュリズム、政治的なパワーゲームなど巨大な闇を巻き込み転がっていく。
ベン・ルイスの快著『最後のダ・ヴィンチの真実 510億円の「傑作」に群がった欲望』を彩るキーパーソンの「本物」が続々登場するのも見ものだ。2017年、問題のオークション現場の映像もばっちり収められている。
記録破りの高額絵画の真贋やいかに?
NYの画商が発見した絵画がダ・ヴィンチ作「サルバトール・ムンディ」と追認される過程と新発見に群がる富裕層の財力やアート界の闇、国家間の駆け引きをスリリングに暴き出す。権威ある人物のお墨付きで価格が急上昇する芸術の本当の価値は?と疑問が浮かび、アート界における野心や私服を肥やすために傑作を利用した人物の多さに驚愕する。監督はさまざまな人物に取材し、アトリビューション(作者の特定)が曖昧だった事実を浮かび上がらせる。匿名で登場するフランス政府関係者が芸術の最後の砦はルーブル美術館というが、同館がダ・ヴィンチ作と証明した文書を絵画の所有者であるサウジの王子に渡したとの説もある。もう、何が何だか?