峠 最後のサムライ (2019):映画短評
峠 最後のサムライ (2019)ライター3人の平均評価: 3.7
戦争の危機に際してリーダーに求められる努力と覚悟
コロナ禍で1年半以上も公開のずれ込んだ本作だが、ロシアによるウクライナへの侵略戦争が進行する中でのタイミングは、結果的に本作のテーマをより意味のあるものにしたと言えよう。戊辰戦争が勃発した幕末の日本を舞台に、戦争を避けるため尽力した長岡藩家老・河井継之助の生き様が描かれる。とにもかくにも、まずは外交努力。罪なき庶民を戦渦に巻き込んではならない。そのためなら、たとえ敵に頭を下げてでも戦争を回避しようとする。そして、不幸にも努力報われず戦となれば、自らが武器を持って先頭に立ち、庶民だけでなく未来ある若者の命も守らんとする。リーダーに求められるのはその覚悟ではないかと思わせられる。
自然の中にひとりの人間を立体的に描く
時代の大きな動きを描く歴史映画でもあるが、ある個人の魅力的な人物像が印象に残る。その人物がどんな遊びを好んだか、妻に何を贈ったか、知人の息子に何を話したかといった私的な事柄が、公的な行動と同じ比重、同じ丁寧さで描かれている。
監督は『雨あがる』『阿弥陀堂だより』でも日本ならではの野や山の緑を描いた、小泉堯史。本作でも、遠くに重なるなだらかな山々の青や緑、川面に幾重もの小さなさざなみを立てる広い川など、大きな風景が画面に映し出されて、おそらくその色や形は、この出来事が起きた頃と同じに違いないと感じさせる。そして、それが現在も変わらない姿で存在していることに思いを至らせる。
想いは繋がるか?
小泉監督で、役所広司で、司馬遼太郎なのですから、当たり前と言えば当たり前ですが、非常に良心的かつ骨太な大作時代劇です。お金と手間暇、人手を費やす時代劇でここまでの規模の作品となると本当に年に数本あるかないかというのが現状で、そんな中での今作は背負うものも多い一作かと思います。そのうえで、相応のヒット、評価をちゃんと集められば、”次の一本”、”次世代の時代劇”に繋がってくれることでしょう。日本オリジナルの映画ジャンルである時代劇というものを存続させるためにもたくさんの人に見てもらいたい映画です。