さよなら ほやマン (2023):映画短評
さよなら ほやマン (2023)ライター2人の平均評価: 4.5
脚本はかなり粗いけど、それを超えて迫ってくるものがある
両親を失い、借金も抱えて追い込まれてる兄弟の日常は、演じる2人のポジティブなアプローチもあって、どこまでも愛おしい。そこに波風を立てる役割で登場する、漫画家役の呉城久美が強引なのに、こちらも人としての弱み、儚さも漂わせ、的確すぎる名演。
登場人物のアーク(感情曲線)に対し、その継ぎ目が粗っぽく、共感しづらい瞬間もあるにはあるが、ドラマの芯がブレないせいか、何ヶ所か激しく胸に迫るシーンが用意される。
大震災での喪失と後悔が前面に出つつ、松金よね子の春子さんの人生へのささやかな思いに、身につまされる人も多いのでは?
感動ドラマと軽やかなコメディ部分のバランスも計算され、観客を限定しない良作かと。
フィクションだから描ける震災後の本音と真実
戦略なのか? タイトルからは分かりづらく、宣伝的にも東日本大震災にはあまり触れていない。それがなんとも勿体無い。だから、あえて言いたい。震災ドラマの傑作だと。
いまだ両親が行方不明で、震災から時が止まってしまったかのような兄弟の暮らしに、他者が強引に住み着いたことで開かれる彼らの心の扉。あの日以降、海産物が食べられなくなったことも、離島での閉塞的な人間関係も、ドキュメンタリーだったら角が立ちそうな当事者たちの鬱屈した感情を、脚本に見事に落とし込んでいる。これぞフィクションの力。それをリアルな物語として響かせたキャスティングがまた素晴らしい。