男女残酷物語/サソリ決戦 (1969):映画短評
男女残酷物語/サソリ決戦 (1969)ライター3人の平均評価: 4.3
ナンセンスだが耳目を愛撫する、ある意味贅沢な一品
好事家にはたまらない! エロでニューロティックなスリラーに見せかけ、「女と男の騙し合いプレイ」へと落とし込むイタリア映画お得意のラウンジムービー。『黄金の七人』(65)の“教授”役フィリップ・ルロワが「純情ウブな変態男」という字義矛盾を生きれば、ドイツの名花ダグマー・ラッサンダーは単為生殖社会を説き、拉致監禁されるも強かなヒロインに。
前衛的な現代アートと、巨匠ステルヴィオ・チプリアーニの(サントラマニアを狂喜させる)楽曲を全篇に散りばめ、耳目を愛撫する、ある意味贅沢な一品。1969年、全世界的「Oh!モーレツ」な時代の産物であり、特にヴァギナ恐怖症の人、ダバダバスキャット好きは必須科目だ。
女性上位時代の超絶モンドムーヴィー
90sのレアグルーヴもこれは引き上げ切れてなかったか。チプリアーニのお洒落過ぎるサントラに悶絶する1969年の伊製逸品『Femina Ridens』(笑う女)。サディストの変態男(P・ルロワ)が急進的なフェミニズムを唱えるジャーナリストの女性(D・ラッサンダー)を監禁するが、サソリの生態に倣って権力の構図はラディカルに反転を果たす。
同時代の大映や11PM等とも当然共振しつつ、『盲獣』(同じ69年)の間野重雄による前衛的女体セットにも負けじと登場するのはニキ・ド・サンファルの「ホン」(彼女)の複製だ。雑誌『プレクサス』や画家ガポグロッシへの敬愛も明示するのが潔い黄金の風刺的セックスコメディ!
トンデモ実験映画では済まされない!
こんな映画が55年も日本未公開だったことに正直、驚き。確かに実験的だが、極端なクローズアップやエログロ感覚など、レオーネやアルジェント作品にも通じるイタリア映画の伝統的映像表現が、しかと見てとれる。
猟奇スリラーのように始まり途中でいくらなんでも……というほどに転調し、ラストではまたテイストを変える。流れとしては強引だが、それでも結末のヒロインの姿に浮かび上がったメッセージをつかめば腑に落ちる。
嬉しい発見は、イタリア製B級映画に多くの美しいスコアを付けてきたS・チプリアーニが音楽を提供していること。本作のリフレインも印象的で、今や高値が付いているサントラが欲しくなってしまった。