ホビット 決戦のゆくえ (2014):映画短評
ホビット 決戦のゆくえ (2014)ライター5人の平均評価: 3.8
本当に「決戦」だけで150分見せる力技。
章を追うごとに「今回はどこまで原作を膨らませるのか」が興味深くなってきたホビット三部作。前作でドラマ的な部分はほぼ使い尽くしたのでどう収束させるのかと思いきや、原題「五軍の戦」そのままに、全編ひたすらにバトルまたバトル! このテの混沌とした状況の処理の巧さは『ブレインデッド』の昔から証明済のP.ジャクソン、他の追随を許さぬタテのアクション……高低差を無尽に利用する展開をあちこちに挟みつつ、圧倒的な力量で見せまくる。映画オリジナルのエルフとドワーフの恋物語や、数等描きこんだ宝の魔力に取り憑かれたトーリンのくだりもエモーショナルで、果てしなく続く戦闘をよりドラマティックにしている。
過酷な“捨てる旅”へと続く円環の閉じる感慨深さは測り知れない
壮大なサーガ6部作が終わる。第2章と直結し戦いに比重を置いた本作は、単品として観れば高揚感が高いとはいえない。しかし“拾ってしまった旅”と“捨てなければならない旅”の円環が閉じる感慨深さは測り知れない。さらなる壮絶な戦いへと思いを巡らせる余韻。この不穏な空気が劇中のものだけであってほしいという切なる願いが募る。
HFR(ハイ・フレーム・レート)に眼が馴染んできた。コントラストにメリハリが付いたせいだろう。最も違いが現れるのは、画質よりも動き。パンやドリーなどキャメラワークは素速く軽やかで、人の動作はライブ映像さながら。ただし重厚な表現にとって違和感を覚える瞬間もあり、進化の余地がある。
ほぼ全編ハード・バトルで、やや疲弊しました。
シリーズ第2弾が超面白く、最終章が楽しみだった。その期待が満たされたかというと、ハーフ&ハーフってところ。なにせ冒頭からほぼ全編がバトルで、ドラマの比重が軽すぎるのだ。もちろんキーリのロマンスとかレゴラスと父親の確執とか描かれるけど、本筋とは関係なし。むしろ取ってつけた感が残念だ。とはいえバトル場面の構成はさすがピージャク! 『ロード・オブ・ザ・リング』最終章で培った戦闘感覚をフル稼働し、ドワーフやオーク、エルフ、人間のくんずほぐれつの大乱闘をリアル描写。見るだけで疲弊する迫力だ。蛇足だがオーランド・ブルームはもう一生レゴラスだけ演じていればいいね。すごい見せ場があり、見直しました。
自ら先頭に立って戦う者こそリーダーに相応しい
いよいよ主人公たちの命運を賭けた大決戦の火蓋が切られる「ホビット」完結編。その後の物語を知っているだけに「LOR」最終章ほどの高揚感はないものの、それでもフロドたちの冒険へと引き継がれていく展開には感慨深いものがある。
本作の核となるのはリーダーの資質であろう。民衆や仲間を率いる者に必要なのは地位でも名誉でもない。そして、自ら率先して命を投げ打つ覚悟がなければならない。当たり前のことかもしれないが、しかし耳痛く感じるリーダーたちも現実には少なくないはずだ。
火を吹いて町を襲うドラゴン、財宝を巡って繰り広げられる壮大なバトル、そして試される友情。まさにあっという間の濃密な約2時間半だ。
あの指輪の旅は、ここで完結する
「ホビット」三部作の完結、というよりも「LOTR(ロード・オブ・ザ・リング)」も含めたピーター・ジャクソン監督によるトールキン世界の映画化の完結。監督は「ホビット」三部作を、終盤に向かって少しずつ「LOTR」に雰囲気が近づけていき、最後に「LORT」第1作に繋げてみせる。しかし、その流れの中で、マーティン・フリーマン演じるビルボだけが「ホビット」第1作のテイストを最後まで貫く。世界が加速度的に叙事詩化する中で、彼だけがちょっとトボけたホビットのままでいるのだ。その在り方は、まさにトールキンが描いたホビットという種族の真髄。このビルボによって「ホビット」は原作の正統的な映画化になっている。