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志乃ちゃんは自分の名前が言えない (2017):映画短評

志乃ちゃんは自分の名前が言えない (2017)

2018年7月14日公開 110分

志乃ちゃんは自分の名前が言えない
(C) 押見修造/太田出版 (C) 2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

中山 治美

不器用な2人に光を当てた珠玉の青春映画

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

脚本は『百円の恋』の足立紳。
だから、だろうか。
主人公2人は吃音に音痴とコンプレックスを抱え、クラスにも馴染めない。
かと言って周囲に迎合しようとか、現実から逃げたりしない。
むしろアウトロー。
高校で出会った2人は海沿いの地方都市という微妙な閉塞感漂う場所で、不器用に、自分の殻を破ろうと一歩踏み出す。
歯を食いしばって生きる彼女たちが愛おしくてたまらない。
原作はコミック。
だがそこに頼らず、演じる南沙羅と蒔田彩珠に寄り添った演出と、機微を丁寧にすくい取った撮影が光る。
青春映画とはいえ必ずしもキラッキラしていないが、きっと誰かの心の拠り所になる。
そんな優しい映画だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
清水 節

南沙良×蒔田彩珠、10代の名女優が劣等感で惹かれ合う化学反応

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 キラキラの学園ものの蔓延は生きづらさが極まった現代の裏返しであることを、この映画の学校的日常の中の実存を目の当たりにすれば確信できる。上手く話せない志乃を演じる南沙良と上手く歌えない加代に扮する蒔田彩珠――てらいなき若き名女優が「劣等感」で惹かれ合うケミストリー。今にも壊れそうな繊細な関係性は鬱屈から高揚へ、そして…という大きな振り幅で思春期のリアルを伝える。海辺のMV的風景と鳴り過ぎるBGMは少女の内面への肉薄を妨げ、ウザい同級生男子の過剰な関与は夾雑物にも思える。とはいえ、足立紳(『百円の恋』)脚本による、湯浅弘章の長編商業映画デビュー作は、今年の日本映画史にしっかりと刻まれるだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

女の子2人で過ごす夏休みの燦めきが眩しい

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 女の子2人の16歳のキラキラが、眩しい。2人が一緒に過ごす夏休みの映像が、驚くほどまばゆい光を放ち、燦めく。これまでも十代の夏休みの輝きを描く映画は多々あるが、ここまで無条件かつ圧倒的な至福に満ちた輝きを放射する映像は、稀なのではないだろうか。自分に周囲とうまく馴染めない部分があることを自覚している女の子2人、高校生になって初めて出来た友人、その子と過ごす初めての夏休み。そんな条件が揃って、輝きが極まる。この光を浴びるという体験は、滅多にできるものではないだろう。
 そして、やはりその光は長続きしないのだが、2人がそれぞれにする決意が清々しい。映画終了後も、その輝きが胸に残る。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

押見ワールドで魅せる、次世代女優の演技バトル

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

デビュー作『幼な子われらに生まれ』での存在感が衝撃的だった南沙良に、是枝監督が見出し、わずかな出演シーンにも関わらず、『友罪』でも爪痕を残していた蒔田彩珠。ある意味、次世代女優の共演だけに、最大のみどころは、一筋縄ではいかない押見修造ワールドで、もがき苦しむ2人の芝居だ。本作が長編初となる湯浅弘章監督だが、海が見える町に舞台を変更したことで、青春のキラキラ感を増しながら、キレイ、カワイイだけじゃない女子の姿や心理を捉え、決して感動を押し売りしない演出など、職人臭が伝わってくる。ただ、これが20代の女性監督なら、残酷さも含め、もう一歩踏み込めたような気がしないでもない。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

様々な“新星”たちの熱い想いが詰まっている

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

素直にいい映画だと思う。押見修造の原作漫画の内部に潜り込んで魂を宿したかのような、有機的な肉付け。南沙良、蒔田彩珠、萩原利久の胸を打つ熱演。映画を観た後もメインの高校生三人が、実在感を持った人物としてずっとこちらの心の中に生き続けている。

ニルヴァーナやオアシスの名盤、ブルハやミッシェルガンのカヴァーなど、ロキノン系アイテムが“CDの時代”のやや懐かしい地方都市の青春に溶け込む。そして時に自他をズタズタに傷つける危険なシロモノとなる「不器用さ」との戦い。脚本は傑作連発の足立紳。監督はこれが長編デビューの湯浅弘章。『流れる』がPFFで受賞してから15年。遅咲きの実力者の底力が本作を支えている。

この短評にはネタバレを含んでいます
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