メイキング・オブ・モータウン (2019):映画短評
メイキング・オブ・モータウン (2019)ライター5人の平均評価: 4.6
音楽良し、コメント良し、構成もまた良し!
多くの才能集う「夢の音楽工場」が、一つ一つの製品に魔法をかけていく(例えば、ジェームス・ジェマーソンの最高のベースプレイ!)。観ながら何度か感極まった。きっと、本来の意味でのショービジネス、そして“芸能”の輝きが横溢していたからだ。
この工場史は重要な、米国文化史でもある(創立者ベリー・ゴーディの自伝『モータウン、わが愛と夢』には、ダイアナ・ロスとの関係等がより詳しく)。特にマーヴィン・ゲイの今に通ずるメッセージソング、ニューソウルの名曲「What's Going On」発売に当時反対したゴーディの自己批判と、相棒スモーキー・ロビンソンの誠実なコメントは、陽気な証言集の中で尖った感触を残す。
何もかもが輝かしい!
最高。数あるモータウン関連物の中でも極めつけの逸品ではないか。60sを席巻したオリジナル・モータウンの歩みをメインに、“モーター・タウン”としてのデトロイトの社会背景、公民権運動との関係、高品質な「売れる音楽」を作る為の理想的(&先駆的)な経営哲学など、すべてが判りやすくて抜かりない。
特に魅力的なのはその“明るさ”。ベリー・ゴーディ社長とスモーキー・ロビンソンのコンビがわちゃわちゃしながら会社の歴史を語る。彼らの「人生を楽しむ」姿勢がそのまま社風だ。貴重な映像&音声素材は悶絶級で、証言者も抜群。ニール・ヤング(マイナー・バーズというバンドで同社と契約したが未発売で解散)まで召喚する凄さよ!
これがヒットの法則!
自動車工場で学んだ流れ作業を応用した音楽作りで、“ワンダー(奇跡)”を起こし、“キング・オブ・ポップ”を発掘した御年90歳のベリー・ゴーディ。9歳年下の相方、スモーキー・ロビンソンとのはっちゃけトークが、とにかく楽しい。リトグリもカバーした名曲「Ain't No Mountain High Enough」がキーワードの構成となっており、「マイ・ガール」誕生秘話やシュープリームスの功績など、知ってるようで知らないエピソードも続々。今やスティーブン・セガールな風貌と化したスティーヴィー・ワンダーの偉大さも再確認できるが、“モータウン版『ベスト・キッド』”な『ラスト・ドラゴン』には触れてほしかった!
BLMの時代に振り返るモータウンの栄光の歴史
モータウンの歴史を紐解くドキュメンタリーは過去に幾度となく作られてきたが、これほど胸を揺さぶられる充実した作品はなかったかもしれない。「黒人音楽ではなく黒人アーティストの音楽」をコンセプトに、地方都市デトロイトに住む当時10代~20代の音楽界を目指す若者たちが住宅街の一軒家に集まり、社長ベリー・ゴーディの指導のもとで修業を積んで才能を開花させ、24時間休む間もなく全米ヒットを生み出していく。そんな黄金時代のワクワク感も然ることながら、公民権運動や反戦の時代と呼応するアーティストの成長にも焦点が当てられ、モータウンが単なるヒット曲製造工場ではなかったことも改めて痛感させられる。
ブラックミュージック史の一コマからBLMが見える
創始者B・ゴーディと当時の天才シンガーソングライター兼、元副社長S・ロビンソンが半世紀以上を経て、モータウン史を振り返る。モータウンのファンには大満足の一本。
1960年代の人種差別期に、白人層にクロスオーバーするブラックミュージックがどのように作られたのか? 数々の名曲とともに語られる、そんな逸話がサクセスストーリーを織りなす。公民権運動時代のツアー話は現在のBLM運動とも地続きで、これも興味深い。
ゴーディの自伝では賭け事好きがアピールされていたが、それが今も健在である劇中の逸話に、ヘビーなモータウン・ファンはニヤリとするはずだ。