世界で一番しあわせな食堂 (2019):映画短評
世界で一番しあわせな食堂 (2019)ライター3人の平均評価: 3.7
アジアに寛大なカウリスマキ兄弟
弟のアキ・カウリスマキ監督の日本好きは知られているが、兄は中国と来たか! フィンランドの小さな村の人たちと、上海から来た料理人が食を通じて心を通わせていく。一見、ありがちな設定だが、近年の急激な経済発展で世界各地に中国人観光客が激増し、少なからず文化摩擦も生じた。そうした風潮への監督なりのメッセージだろう。同時にフィンランドをはじめ欧米の人は意外に食に保守的。そんな彼らに医食同源の思想を持つ中国の食文化の豊さを伝えてる。それも本格中華ではなく、現地の食材を使ったフュージョンというのが文化交流をテーマにした本作にぴったり。恐らく監督は相当の食いしん坊。シズル感溢れる料理シーンにそれが表れている。
プチ・グローバリゼーションに心ほんわか
医食同源の中国料理に太極拳、白夜やトナカイ肉にサウナが一堂に介したら? A・カウリスマキ監督が中国とフィンランドの文化を絶妙にミックスさせて、微笑ましい人間賛歌を作り上げた。美味しい料理は国境を易々と超えるとはいえ、フィンランド人が『かもめ食堂』よりも素早く中華料理に慣れ親しむのはちと悔しい。でも主人公のチェンは上海の有名シェフだし、体にいい料理と聞いてはね。広い心で異文化を受け入れる登場人物に嫌な人はおらず、見ていて気持ちがほんわか優しくなる。それにしても、中国人観光客のバイタリティには驚く。舞台のポポヤンヨキはフィンランドでも相当な田舎らしいが、そのうちチャイナタウンができそうな勢いだ。
何より「人柄の良さ」がにじみ出る
特定のスタイルを決めず、『GO! GO! L.A.』『モロ・ノ・ブラジル』『旅人は夢を奏でる』など国・場所も変えて素朴な温かみの映画を撮り続ける――。フィンランド代表の映画兄弟でありつつ、寡作でよりマイペースなミカ・カウリスマキ兄ちゃんの作風は、弟アキとは色々と対照的だ。今回は母国の美しいラップランド地方を舞台に、上海から流れてきた料理人を迎え入れる。
中国の“父と息子”版『かもめ食堂』といったイメージはやはり思い浮かぶが、こちらは互いの特性で補完し合う、異文化融合の理想的な縮図を見ているようだ。シンプルで予定調和だが、傑作や名作の大狙いをせず、慎ましい佳作に仕立てたミカらしさに嬉しくなる。