王の願い ハングルの始まり (2019):映画短評
王の願い ハングルの始まり (2019)ライター3人の平均評価: 3.3
『愛の不時着』タン・ジュンサンの愛くるしさがここでも炸裂!
自分らの言語を記録する術を持たない民衆のため、知識層しか理解できぬ漢字に代わって朝鮮固有の文字を作りたい。そう考えた朝鮮王朝の名君・世宗大王が、儒教国・朝鮮では最下層に虐げられた仏教僧侶の力を借りて文字開発に勤しむも、知識という支配層の特権を手放したくない臣下たちからの激しい抵抗に遭う。ハングル誕生にまつわる秘話を、重厚ながらも軽妙洒脱な筆致で描いた歴史ドラマ。共に朝鮮民衆の幸福を願う世宗とシンミ和尚が、互いの立場を超えて共鳴していく様子は、『世宗大王 星を追う者たち』を彷彿とさせる。『愛の不時着』のウンドン役で注目されたタン・ジュンサンが、ここでも純朴な若い僧侶を演じて実に愛くるしい。
これぞ「面白くてタメになる」のど真ん中
ワクワクする言語の成り立ち。朝鮮・韓国オリジナルの表音文字であるハングル(当時は「訓民正音」)の15世紀の起源秘話を平易に描く歴史劇。この遠い後日談が「辞書もの」の『マルモイ ことばあつめ』(19年)だが、それまでエリート~上級国民の特権物だった漢字の代わりに、一般庶民も読み書きできる単純な点と線で組成された「シンプルな記号」としての新しい文字が創製されていく。
つまり「言語の民主化」。16世紀初頭、ラテン語からドイツ語に聖書を翻訳したルターの宗教改革に通じる、知の大衆への解放の物語だ。ソン・ガンホとパク・ヘイル、本作が遺作となったチョン・ミソンの『殺人の追憶』(03年)以来の共演に拝礼を。
知識は力なりと実感できる歴史ドラマ
今なお尊敬されている朝鮮王朝の第4代国王、世宗の功績であるハングル創製をドラマティックに描き、知識は力なりと実感する。王の発案である文字創製が官僚や両班の猛反発を食らうのは、漢字の読み書きは彼らの特権だから。しかも王の考えを実践するのが身分の低い仏僧なのがまた反感を買う。身分制度は弊害しか生まないな。王の葛藤やハングル作りを巡る両サイドの深謀遠慮が見どころ。糖尿病で息も絶え絶えになりながら庶民の生活向上に貢献しようと頑張る王役のソン・ガンホも僧侶を演じる知性派俳優パク・ヘイルも安定の熱演だ。『愛不時』のタン・ジュンサンが役者としても成長した好演で二人をサポートする。