返校 言葉が消えた日 (2019):映画短評
返校 言葉が消えた日 (2019)ライター5人の平均評価: 3.8
これがホラー・ゲームの映画版だとは!
台湾で評判となったというホラー・ゲームの映画化。国民党の独裁政権下にあった1962年、反共を掲げる政府のもとで激しい言論弾圧が行われ、国民同士の密告と当局による拷問・処刑の恐怖が社会の疑心暗鬼を生んだ時代を背景に、モンスターやゴーストの徘徊する真夜中の校舎に迷い込んでしまった男女高校生が、この悪夢のような世界からの脱出を試みる。モンスターを怪物的な権力体制、ゴーストを犠牲者の魂や主人公たちの罪の意識のメタファーとして捉え、無垢な若者たちがどれだけの犠牲を強いられ、青春をズタズタに引き裂かれたのかが浮き彫りにされていく。こういうアプローチがあったのか!と驚かされる野心作だ。
ゲームのテイスト×歴史問題のテーマの、なんとも斬新な味わい
戒厳令下の反体制派への弾圧という、もろにテーマは社会派。しかしそこが際立っているようで、弾圧というシビアな状況が、見えないモンスターのようにじわじわ心を蝕み、ホラー的ムードを増長。一言で表現しづらい不思議な作品になっている。VR作品で才能を認められた監督だけあって、ゲームを体感させる絵作りも独創的。
短い出番の人物が、やけに不気味な言動をとったり、目を覆うショッキングな瞬間も用意されるなか、教師と生徒のピュアな信頼の絆が静かに貫かれ、そのコントラストも、これまた妙味。
1960年代の「暗黒時代」が、現在の香港を考えると、また繰り返されるかも…と、台湾の人々の危機感が伝わり、そこが最も怖いかも。
白色テロの残滓を精算せんとする青春ホラー
白色テロ時代を背景に、自由を求める若者の渇望や淡い恋心を描いた青春ホラーだ。夜の高校に閉じ込められた高校生男女が遭遇する恐怖の謎が徐々に解き明かされ、友人や家族でさえも信じられない状況で心のままに行動してしまった高校生の後悔へとつながる展開には切なさもある。中国国民党の強権政治下で人々が味わった苦しみの残滓を精算するかのようなドラマ部分が素晴らしく、ラストは涙ポトリ。物悲しげな表情で役柄に深みを与えた美少女W・ジンと本作がデビューのT・ジンファの繊細な表情演技に惹きつけられる。実は知人に教えられるまでゲーム原作とは知らなかったが、ストーリー性の高いゲームに多くの人がハマるのも納得。
デル・トロ流ホラーへのアジアからの返答!?
1960年代、圧政時代の台湾を生きたティーンの、声にならない叫びが込められたかのような幻想ホラー。ゲームの映画化という前情報はとっかかりに過ぎず、一本の映画として楽しめる。
学校という空間をお化け屋敷に見立てている点はありがちな設定だが、子どもたちが暗い独裁政権下を生きているのがミソ。教師も同級生も信用できない、そんな密告社会がスリルを盛り立てるうえで機能を果たす。
クリーチャーがギレルモ・デル・トロ作品を連想させたが、思い返せば彼もまた『パンズ・ラビリンス』等で独裁政権下のスペイン暗黒時代を子どもの視点で描いていた。切ない展開を含めて、その影響は大と見た。
闇の中の言葉と自由と
まずこのテーマ、この物語がゲームベースだと言うことに驚きを隠せません。しかも台湾ではそのゲームが大ヒットし、映画化されるという展開は過去に実例はないのではと思います。
白色テロ時代の台湾というと『悲情城市』『牯嶺街少年殺人事件』というアジア映画史に残る名作のタイトルが浮かびますが、本作もそれに勝るとも劣らないピリッとした見応えたっぷりの映画に仕上がっています。
ダークファンタジー&スリラー的な物語の展開は見ている側に何とも言えない緊張感を与え、最後まで目を離せなくなります。