インタビュー

第4弾:伊藤英明

風俗街で暗躍する刑事・宮本役

TOKYO VICE: 伊藤英明

Q:本作に参加することになった経緯を教えてください。

マイケル・マン監督がとにかく大好きで、「もしかしたらマイケル・マンに会えるかもしれない!」という一心でオーディションを受けました。マイケルじゃなかったら、自信がなくて受けていなかったかもしれないです。

俳優仲間の松角洋平くんに相手役をやってもらって、主人公のジェイクと風俗に行って女性に囲まれながら日常会話をするというシーンを比較的コミカルに演じてみました。そのオーディションテープを送ったら、マイケルとのオーディションの席に呼ばれることになったんです。

TOKYO VICE: 伊藤英明

Q:オーディションでは実際にどんなことをされたのですか?

マイケルからは台本とは関係なく、感情を出すために、いろんなことをやってくれと言われました。自分が思う役になり切って、水を頼んでくれ、歩いてくれ、とか。それを彼が自分のカメラで撮っていました。その時はマイケルに会えたうれしさで、舞い上がって演じられたんです。

2回目のオーディションでは、J.T.(脚本家のJ.T.ロジャース)もいて、その時は佐藤(笠松将が演じた若きヤクザのリーダー)を演じました。後から聞いた話では、J.T.は佐藤役、マイケルは宮本役が僕に合っているんじゃないかと思っていたそうで。

2回目の時は言い訳になってしまうのですが、本作のほかに2本のドラマを抱えていて、さらには宮本だと思っていたのが佐藤を演じることになり、「これは無理かもしれない」と思いながらやったんです。

マイケルから見たら、僕の雰囲気がオーディションテープの時と1回目の時とは全く違うから、「あの明るかったヒデアキはどこに行ったんだ?」と言われました。

3回目も呼ばれたのですが、今度はアキラ役(山下智久が演じた謎めいたカリスマホスト)で。「どうやって女性を口説くか」みたいなことをやって、すぐ終わったんです。

海外で活動している俳優仲間に聞いたら、何回もコールバックされるのはいいことだけど、役が毎回変わることはないって言われて、やっぱりだめなのかなと思いました。

Q:その後、どうなったんですか?

4回目でまた宮本の役をやることになり、今度はマイケルと二人きりだったんです。ですが“マイケル・マンやハリウッドの素晴らしいスタッフたちとの仕事”がすぐ手の届くところにあるんだと思った瞬間、緊張して、何にも演じられなくなってしまって。

マイケルは、1回目、そしてオーディションテープの時に見たものを望んでいたんです。

「なんでそんなにナーバスになっているんだ? あの時のもっと明るい、もっと輝く感じを出してくれよ! それを出すにはどうしたらいいんだ?」と言われたから、「この役に僕を決めてくれたら、ナーバスにならずに演じられる」と言ったら、「See you on set(セットで会おう)」って。それで決まったの!? っていう(笑)。

ただ HBO Max のGOサインが出ないと確定ではなかったので、撮影が始まるまでは半信半疑でしたね。

TOKYO VICE: 伊藤英明

Q:マン監督の言葉で印象に残っているものはありますか?

僕がオーディションでナーバスになっていた時、「全部を完璧に演じようとしなくていい。一つでも輝くものがあれば、俺たちは選ぶ」と言ってくれたんです。例えば、オーディションは全くダメだったとしても、ドアから入ってきた瞬間や出ていく瞬間、その瞬間輝いていれば選ぶから、と。それですごく楽になりました。

その時も20回くらい演じたのですが、彼は単なるセリフではなく、そこに込めたさまざまな感情を見てくれ、こんな経験はもう絶対にできないと思いました。

あと、NGがないんですよね。これは僕が思っているだけかもしれませんが、日本だと、セリフを一つ間違えたら、全部“自分が悪い”みたいな感じになってしまうところがあって。自信がないから緊張してしまい、間違えないようにわざとパフォーマンスを落としてしまうとか……。

ですが今回は、何回やってもいいし、NGもない。マイケルは「そこで役として輝かなければ俺の責任だから」と言ってくれたんです。だから、“マイケル・マンが選んでくれた”という事実は、自信を失いそうな時に助けになりました。それは今もそうです。

Q:マン監督の撮影スタイルはいかがでしたか?

カメラがカバーするフィールドがものすごく広くて、俳優はどこへ行ってもいい、というような感じなんですよ。例えば、クラブのシーンではカメラがどこから撮っているのかもわからなかったりして。

僕がやることは、ただ宮本という人物として、トイレに行ったり、女の子を見たり、酒を飲んだり、たばこを吸ったりすること。だから、演じている感じがしなかったんです。

そういう点で、これまで自分が何を見て、何を感じたか、というのがものすごく大事なんだなとあらためて思いましたね。当たり前だと思われるかもしれませんが、自分の人生が役に厚みを持たせるという感覚を、初めて身をもって体感した気がします。

TOKYO VICE: 伊藤英明

Q:マン監督のこだわりはどういったところに感じられましたか?

例えば、200人のエキストラさん一人一人に合った衣装を、マイケルは現場で、自分で選ぶんですよ。実際に主演のアンセル(・エルゴート)に照明を当ててセリフを言わせている時に、「その衣装ちょっとおかしいな」と言って、アンセルのアシスタントが着ていたシャツに変えたりとか(笑)。

作品のためなら、何の妥協もしないんです。カメラ位置を変えるから今日はもう撮影できない、とか。一切の妥協なしでいい作品を作るんだ、という気持ちの強さが現場にも出ていました。言い切れないくらい、本当にいろんなことにこだわっていて。

日本のドラマだと、いい悪いではないんですけど、シーン数もカット数も多いのでどうしても合理的にならざるを得ないところがあるんです。本作ではそうではなく、合理性というものを一切排除していました。

役者の気持ち一つにしてもマイケルは気を配り、もし役者がナーバスになっていてそれが演じる上での障害になっているとわかると、一対一で話し合う。

外国の制作スタイルは決まった時間だけ働いたらその後はきっちり休むというイメージだったのですが、マイケルは3日間とか寝ずにぶっつづけでやるんですよ。僕らも彼のエネルギーに引っ張られて行きました。本当にすっごく楽しかったですよ! 「またやるの?」ではなく、「またやれるんだ!」って。

《photo:TOWA/makeup and hairstyling:Mitsue Sato/stylist:Go Negishi》

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