超大作ドラマ・シリーズ「TOKYO VICE」の全貌を解き明かす全5回の連載もいよいよ最終回。“世界で最も撮影が難しい都市”といわれる東京でのロケにこだわった製作陣の思いや、それをどのように実現していったのかに迫る。
東京のアンダーグラウンドを描く本作はそもそも、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でアカデミー賞を獲得したプロデューサーのジョン・レッシャーが長年温めてきた企画だ。ハーバード大学で日本文学・歴史を専攻し、1980年代から何度も来日するなど日本への造詣が深いレッシャーにとって、まがい物ではない、リアルな東京を描くことが何より重要だった。
「プロデューサー仲間たちからは『(東京での撮影なんて)やめておけ、そんなことをやるやつはいない。不可能だ』と言われました。舞台が東京であっても、通常はバンコク、台湾、バンクーバーなどで撮影するものなんです。しかし、『TOKYO VICE』という作品では、東京という街自体が、一人の登場人物であるかのような存在感を持っています。だからこそ、わたしは『東京でロケができないなら作らない』と言いました」(レッシャー)
第1話のメガホンを取ることになったハリウッドの巨匠マイケル・マンも東京での撮影を熱望し、ロケーション・スーパーバイザーのジャニス・ポーリーを日本へ呼び寄せた。ポーリーは『ヒート』『マイアミ・バイス』『コラテラル』などマン監督作の常連で、近年は『TENET テネット』にも参加したすご腕だ。
エグゼクティブ・プロデューサーの鷲尾賀代はポーリーと行動を共にし、その印象を「ロケーション・スーパーバイザーとしてのすさまじいプロ意識を感じました。それぞれの国で礼儀が違うということで、まず、日本の方式を教えてくれと言われました。手土産、お辞儀なども含め伝えると、彼女は熱心に実践し、本当に一生懸命交渉していくんです」と明かす。ロケーションの実現については、ポーリーのみならず、マン監督も尽力した。都知事を訪問することを希望したのはマン監督だったといい、鷲尾は「きちんとしたリアルな日本を撮りたいと思ってくれていることがとてもうれしい反面、そこまでの情熱がないと撮れない状況はもどかしく、もっとわかりやすいシステムの必要性も感じました」と振り返った。
そうして作られた本作では、レッシャーの狙い通り、渋谷、六本木、新宿・歌舞伎町やゴールデン街、池袋とさまざまな顔を持つリアルな東京がこれでもかとスタイリッシュに映し出される。全てのフレームを東京とその近郊で撮影したことが生んだリアリティーにより、これまでハリウッドで描かれてきた東京とは一線を画す“本物の東京”が世界の観客へと届くことになった。
「TOKYO VICE」特設サイト powered by WOWOW