日米の才能が集結した「TOKYO VICE」は、WOWOWと HBO Max との共同制作で実現した超大作ドラマ・シリーズだ。いまだベールに包まれた本作はどのようにして生まれたのか? そしてその魅力は? 連載全5回の1回目は、その出発点をさぐった。
「TOKYO VICE」は、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でアカデミー賞を獲得したプロデューサーのジョン・レッシャーが長年温め続けてきた企画だ。主人公は、日本の新聞社で暴力団の闇に迫るアメリカ人記者。黒澤明や小津安二郎の映画を観て育ち、ハーバード大学では日本文学・歴史を専攻したレッシャーにとって、東京という街をじっくり描くことができる「TOKYO VICE」は自身の集大成でもあった。
当初は小規模な独立系映画として制作するつもりだったが、うまくハマらず一度は断念することになる。しかし後に、主人公のアメリカ人記者のみならず、いろいろなキャラクターを掘り下げることができるドラマ・シリーズというフォーマットに可能性を感じて再始動させることを決意したという。著名な劇作家であるJ.T.ロジャースと共に最初のエピソードを作り上げていき、新聞記者、警察、ヤクザ……とさまざまな層が複雑に絡み合う物語に仕上げていった。
一方、「海外にアピールできる作品を作りたい」と常々考えていたエグゼクティブ・プロデューサーの鷲尾賀代はWOWOW側のキーパーソンとなった。長年ロサンゼルスに駐在していた鷲尾は、海外にアピールできるような潤沢な予算を必要とする作品は「共同制作」しかないと考え、何のノウハウもない中でまずはマーティン・スコセッシ、ロバート・レッドフォードらのドキュメンタリーでアメリカとの共同制作を実現した。さらに「いつかはドラマがやりたい」と会う人会う人に言い続けてコネクションを築いていき、それが実を結んだのが2018年秋のカンヌ・テレビマーケットだ。米制作会社エンデバーから「あなたがずっとやりたいと言っていたものと近いのでは?」と提案されたのが、「TOKYO VICE」の企画だったのだ。
その時点で決まっていたのは、ジョン・レッシャーがエグゼクティブ・プロデューサーで、脚本はJ.T.ロジャース、主演は『ベイビー・ドライバー』のアンセル・エルゴートということ。HBO Max が興味を示しており、渡辺謙、マイケル・マン監督にオファーしているということだけだった。しかし、鷲尾はこれこそが長年追い求めていた「海外にアピールできる作品」であることを確信し、時間はかかっても必ず実現させるとエンデバーに約束した。
こうしてWOWOWと HBO Max の日米共同制作による超大作ドラマ・シリーズが動き出すことになった。しかも、日本の闇の部分をもあぶり出すような、本格的な日本を描く社会派ドラマが実現しようとしていた。
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