ドーナツキング (2020):映画短評
ドーナツキング (2020)ライター3人の平均評価: 4
ドーナツの穴の向こうに移民国家アメリカの懐の深さが見える
カンボジア系移民のドーナツ王テッド・ノイの波瀾万丈な人生に焦点を当てたドキュメンタリー。’70年代に大勢のカンボジア難民を受け入れたアメリカ。そのひとりだったノイ氏は、大手ドーナツ・チェーンで技術研修を受けた後、すぐに自分の店を持って独立。さらに、親戚や友人などカンボジア系移民の仲間たちにもノウハウを伝授し、最終的に大手チェーンが西海岸撤退を余儀なくされるほどカンボジア系の個人ドーナツ店が市場を席巻する。ある意味、恩を仇で返した形だが、それもまた自由競争の宿命と納得する恩人たち。しかも、巻き返し攻勢を図る大手に対して、地元住民がカンボジア系ドーナツ店を支持する。移民国家アメリカの懐の深さだ。
アメリカンな食べ物ドーナツを作る移民の物語
勤勉に働いて財を成したカンボジア難民テッド・ノイがドーナツ業界に残した功績に驚く。お馴染みのピンクの箱は彼の発案だし、修業先の大手チェーンのノウハウも上手に利用。カリフォルニア州のドーナツ店のほとんどがカンボジア系アメリカ人経営なのもテッドが多くの同胞に手を差し伸べた結果で、勲章もゲット。しかし好事魔多し!? 単なる“いい話”で終わらせないA・グー監督の視点がいい。そしてテッドのドーナツ愛を受け継ぐ移民2世がドーナツ界に新風を吹き込み、チェーン店と勝負している現状にホッとさせられた。監督はまた移民に対する歴代大統領の姿勢も明らかにし、アメリカが移民国家であることを再確認させる。
人生ドラマとしても食文化のうんちくとしても楽しい
最近までダンキン・ドーナツが存在せず、店の人はほとんどアジア系で、箱は必ずピンク。そんな南カリフォルニアのドーナツ文化の背後には、このカンボジア難民男性がいた。一生懸命働き、何もないところから大金持ちになった彼は、アメリカンドリームの象徴。難民問題にあらためて焦点が当たる今、苦境を乗り越えてきたこういった人たちもアメリカの大きな一部なのだと思い出させてくれた。後半は思いのほかダークになっていくが、最後は未来への希望を感じさせ、再び明るい気持ちに。カラフルなドーナツの映像の数々やアニメーション使ったビジュアル、ヒップホップのサウンドも楽しい。