轟 夕起夫

轟 夕起夫

略歴: 文筆稼業。1963年東京都生まれ。「キネマ旬報」「月刊スカパー!」「DVD&動画配信でーた」「シネマスクエア」などで執筆中。近著(編著・執筆協力)に、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督』(ぱる出版)など。

近況: またもやボチボチと。よろしくお願いいたします。

サイト: https://todorokiyukio.net

轟 夕起夫 さんの映画短評

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  • メイ・ディセンバー ゆれる真実
    ポートマン怪演、トッド・ヘインズ流「告白的女優論」
    ★★★★★

    乾いた可笑しみが全篇に。それを端々で象徴するのが(同じく“年の差恋愛”を題材とした)『恋』(71/ジョゼフ・ロージー監督)の荘厳なスコアのトリッキーな援用、ミシェル・ルグランの大仰とも受け取れかねないストリングスの使い方だ。

    全米を賑わせた実話スキャンダルの映画化の過程、演技者と当事者の駆け引きをジュリアン・ムーア、ナタリー・ポートマンが魅せる。応用されているのはベルイマン作品で、『冬の光』(63)の長回しで捉えられたモノローグ、『仮面/ペルソナ』(66)の女性二人の共依存関係。『鏡の中の女』(76)の精神世界へのアプローチも。映画史を猥雑に扱う、実に“食えない監督”トッド・ヘインズらしい。

  • お母さんが一緒
    木下惠介テイスト(ソフトなポツドール!)な橋口ホームドラマ
    ★★★★★

    橋口亮輔作品はかねがね演劇、それも特に三浦大輔主宰、劇団ポツドールの赤裸々な人間(関係)描写との親和性があった。だから、その両方と縁深いペヤンヌマキ(原作舞台・脚本)とコラボをしても不思議ではないのだが、しかもそこに、すでに血肉となった木下惠介テイスト(ソフトなポツドール!)を融合、NEW橋口ホームドラマを撮ったところに“企画の妙味”を感じる。

    数々の逸品を生んできた定番のシチュエーション「三姉妹もの」で江口のりこ、内田慈、古川琴音、各々の決めワザをクロスさせ、飛び道具は青山フォール勝ち。橋口監督がこれまで紡いできた「ハタから眺めれば滑稽だけど慈しみに溢れた人間模様」の成熟を見るようだ。

  • 密輸 1970
    改めて「リュ・スンワン監督に一生付いてゆく」宣言!
    ★★★★★

    水中アクションだけではない。目や耳をみっちりヒートさせ、胸の奥の血潮を滾らせてくれながら、にもかかわらず体感はスカッと清々しい「納涼シネマ」。今時、映画でこんなにも嬉しい“おもてなし”を享受できるとは!

    海女さんたち、密輸ビジネスに手を染めてしまうの巻である。が、一見荒唐無稽でもベースとなる社会背景、人物造形のディテールに1970年代の史実が横たわっており、ノリとして愛しの東映JUNK ムービーと共振しつつもその点では一線を画すか。主演二人は無論のこと、コ・ミンシ扮する喫茶店オーナーの心意気に打たれる。デビュー作から贔屓だったが、ここで改めて「リュ・スンワン監督に一生付いてゆく」宣言を――。

  • 男女残酷物語/サソリ決戦
    ナンセンスだが耳目を愛撫する、ある意味贅沢な一品
    ★★★★

    好事家にはたまらない! エロでニューロティックなスリラーに見せかけ、「女と男の騙し合いプレイ」へと落とし込むイタリア映画お得意のラウンジムービー。『黄金の七人』(65)の“教授”役フィリップ・ルロワが「純情ウブな変態男」という字義矛盾を生きれば、ドイツの名花ダグマー・ラッサンダーは単為生殖社会を説き、拉致監禁されるも強かなヒロインに。

    前衛的な現代アートと、巨匠ステルヴィオ・チプリアーニの(サントラマニアを狂喜させる)楽曲を全篇に散りばめ、耳目を愛撫する、ある意味贅沢な一品。1969年、全世界的「Oh!モーレツ」な時代の産物であり、特にヴァギナ恐怖症の人、ダバダバスキャット好きは必須科目だ。

  • ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
    ニューシネマでもオールドシネマでもなく、NOWなシネマ!
    ★★★★★

    期待値をあまりに上げ過ぎて臨むと、やや間延びした前半の語り口に面食らうかもしれない。だが、クリスマス休暇中の寄宿学校に主要人物たちがホールドオーバーされ、物語のギアが変わるや、その停滞の時間さえもが愛すべきものとなる。

    近年、こんなにもしっかりと「THE END」と銘打つ映画があっただろうか! アレクサンダー・ペイン監督の矜持だ。いわゆるアメリカン・ニューシネマ的スタイルに回帰するのは一歩間違えればノスタルジー趣味、却って「オールドシネマ」な陥穽に転がり落ちるものだが、絶妙なバランスで生成。“あの時代”以上に人心が荒んでいる今こそ必要な、これぞ「ナウシネマ(造語)」だと声を大にして言いたい。

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