ワールド・ウォー Z (2013):映画短評
ワールド・ウォー Z (2013)ライター4人の平均評価: 3.8
画期的な手段でゾンビの脅威を収束させたことが最大の発明
かつてノロノロと徘徊するだけだったそれは、疾走する革命を経て、遂に高速感染する時代がやってきた。ゾンビの話である。しかしそのジャンルには収まりきらない。そもそも襲撃者は「甦った死体」でも「人肉を喰らう死者」でもない。ゾンビ映画は社会状況を反映させて語るモチーフとしても人気だが、この映画は作り手自身が、ゾンビを世界に破滅をもたらす悪意や暴力のメタファーとして扱っている。ゾンビ・ウイルスの発端は韓国のようであり、イスラエルへと向かうのだ。潜在的な危険要因を抱えたエリアを舞台に選んだのは、偶然ではあるまい。感染と非感染を隔てる巨大な「壁」に瀑布のように群がるゾンビの大群の光景は、絶望的なパンデミックの画として映画史に刻まれるだろう。
ブラピが、知恵と行動力で救済すべく世界を股に掛ける。危機また危機は用意されているが、エンディングへ向かってまっしぐら。演出は単調だ。WHO世界保健機関内で起きることが更にサスペンスフルに描かれていれば、カタルシスは大きかったはず。しかし、「逃走する」「撃ち殺す」以外の画期的な手段でゾンビの脅威を収束させ、希望をもたらしたことは、最大の発明である。
ボリューム満点のわりに後味はあっさり
ドラマ「ウォーキングデッド」の大ヒットを例に挙げるまでもなく、相変わらず人気の根強いゾンビものジャンルであるが、これをゾンビ映画と呼ぶのは、少なくともホラー映画ファンの中では賛否両論に分かれることであろう。原因不明の病原菌によって人々が発狂→モンスター化という設定は、やはりパンデミック映画と呼ぶべきか。
ビックリするくらいの猛スピードで大勢の感染者が襲い来るパニックシーンは迫力満点。たたみかけるようにスピーディーなテンポといい、大規模な地上バトルから航空パニックまで見せ場に次ぐ見せ場の展開は圧巻だ。「28日後…」の拡大スケール版というか、「ナイトメア・シティ」の超アップグレード版というか(笑)。そうそう、疾走するゾンビの原点は「ナイトメア・シティ」だったよね。
それはともかく、これだけボリューム感たっぷりでありながら、見終わった後の印象は極めて薄い。その理由は題材に反して残酷シーンの直接的な描写が皆無に等しいということもあるが、なによりも世界を救うという重大な使命にまつわる人間ドラマが表層的なものに終始してしまった点に尽きるであろう。
パンデミック映画の傑作『28日後...』以来の大興奮
出来の良い予告編ほど本編を見たらガッカリ…のパターンが多いが、本作は期待を裏切らなかった。謎のウィルスに感染してゾンビ化した人間VS.非感染者の死闘は、肉親だろうが恋人だろうが容赦ナシ。さらに食料を巡って奪い合い、他人を蹴落としてでも生き延びようとする人間の強欲な姿まで見せる。迫り来るのは理性を無くし、人で無くなってしまうことの恐怖。絵空事だと分かっていても、身につまされる脅威と興奮は、同じくウィルス感染した人間が凶暴化するダニー・ボイル監督『28日後...』を彷彿とさせる。
確かに、使い古されたネタではある。感染原因を探るブラピの不死身さ加減なんて、もはや神の域を超えている。だが、群衆がワラワラ襲ってくる圧倒的な映像とスピーディな展開が、観客に疑問を抱く余地を与えない。ブラピは製作総指揮も兼務。やるな。
スリルの肝は感染者ではなく、生存者
世界中の生存者たちのインタビューという形式をとった原作小説を、いったいどうやって一本の映画にするのか? ゾンビの群れの猛襲がどれほど凄まじいのか? これらの興味は見ているうちに、正直どうでもよくなった。つまらなかったのではない。逆に食い入るように見入ってしまう。
カメラが主に追いかけるのは都市のパニックや逃げ惑う人々の姿。臨場感&緊張感を伝えるうえで、これが効果を発揮し、冒頭のフィラデルフィアの騒乱だけでグイグイ引き込まれる。その後のブラッド・ピットの奔走はヒロイック過ぎるきらいがあるものの、彼の視点となったり、その後を追ったりする映像は生存者側の緊張を一貫してとらえている。
人体食いちぎりといったバイオレンスも、血しぶきも皆無。そういう点ではゾンビ映画ファンの期待に応えるとは言い難いが、それでも緊張感はハイテンションで持続し、パニックのスリルは伝わってくる。ゾンビ映画を敬遠する方にこそ見て欲しい。