アイアンマン3 (2013):映画短評
アイアンマン3 (2013)ライター4人の平均評価: 4
トニー・スターク、原点回帰の物語
大作アクション・シリーズでは回を重ねる度にスケールアップに力を入れるあまり、お話が破たんするケースがある。本作はそれを巧みに回避し、なおかつアクションのスケールアップを成し遂げた稀有な例ではないだろうか。陸から空へと縦横無尽に駆け抜けるスペクタクルの凄みもそのままに、グレードアップした複数のスーツが見せ場を作る。何より、主人公トニー・スタークがヒロイックな妄執を脱し、自身の原点=エンジニアへと立ち返るストーリー展開がイイ。ラストで彼が、ある物を拾い上げるシーンにはグッときてしまった。
保守回帰の中で真面目に葛藤するダーティ・ヒーロー
やはり昨年のお祭り映画『アベンジャーズ』を通過したせいで、シリーズ前二作とは異なる印象に仕上がっている。もともと一匹狼の異端児=肉食系ダーティ・ヒーローの色合いが強かったアイアンマンが、今作では合衆国政府による保守回帰の風潮の中で、ずいぶん真面目にヒーローであることに葛藤。この変化は単体ではなくサーガの流れの中で真に味わえる部分だろう。一方、映像は単純な快楽性を増し、ハイパーアクションとしての精度は最高。逆にいうと超合金的なガジェット感は減じ、第一作のブラック・サバス「アイアンマン」、第二作のAC/DC「スリルに一撃」や「地獄のハイウェイ」に当たる“昭和のアニメ主題歌”のようなオールド・ハードロックのテーマソングもない。前二作のレトロな匂いが好きだった者としては寂しいが、合わないものを切り捨て更新の道を選んだことはある意味すごいと思う。
“最終章”のくせに、どこか漂うB級テイスト
事前情報から不安にかられた、お気楽社長のヒーローとしての苦悩物語…なんてものは、ほとんど描かれていない。目の前に現れるのは、イップ・マンでおなじみの詠春拳を学び、窮地に追い込まれた際にイジメられっ子とタッグを組むなど、さらに中学生モードが注入されたトニー社長のロードムービーだった。そんな嬉しい誤算としては、『ロックアウト』に続いて怪演している、ガイ・ピアースの存在感も同様。中国資本がたっぷり入っていながら、違和感なく130分突っ走る力技はさすがのハリウッド大作(中国公開版は編集が若干異なる)。だが、80年代に量産されたSFばりな最強軍団の正体など、どこかB級テイストが漂うのは“最終章”としてはどうなのか? それはそれで全然いいんですけど…。
明確で鋭い風刺精神を持ったスーパーヒーロー映画
自信家で減らず口のヒーロー、アイアンマン=トニー・スタークが、その傲慢さゆえに最悪のピンチを迎えてしまうというお話。たとえ過去のことであろうと、犯した罪はいつか自分の身にはね返ってくる。今回の敵はムスリムを連想させるテロリスト、マンダリン。おのずと、トニーの因果応報が現代アメリカのテロ社会を揶揄したものであると分かろう。しかも、その悪人の正体が実は○○で、背後にはさらなる巨悪が…と、これ以上はネタバレになるので差し控えるが、要は単純明快なスーパーヒーロー物のお約束をきちんと踏まえつつ、情報化社会やグローバリズムに対する痛烈な批判と疑問を投げかけているのだ。その風刺精神は過去作品よりも明確で鋭い。個人的にはシリーズ最高傑作だと思う。