嘆きのピエタ (2012):映画短評
嘆きのピエタ (2012)ライター2人の平均評価: 4.5
悟りを開いたギドク様による、暴力のその先
韓国映画界初となる、世界三大映画祭の一つであるベネチア国際映画祭で最高賞を受賞。ただ、キム・ギドク監督の尖りまくった旧作を知る者にとっては、「これで?」と物足りなさを感じるに違いない。事実『受取人不明』や『悪い男』、『うつせみ』に悶絶した筆者には、本作の観客に嫌悪感を抱かすような暴力&性描写にあざとさを感じる。それでも一時期、描きたいものがなくなったのではないか?と思えるほど作風が迷走していたギドク様に、描きたいものが生まれたことを歓迎したい。今回は資本主義社会への疑問が製作エネルギーになったようだが、この社会への怒りが滲み出る作品こそギドク映画なのである。しかも今まで、怒りのすべてを暴力で表現していたギドク様だが、新たな展開を見せてきた。暴力の痛みはいずれ消えるが、裏切りや愛する人を喪失することこそ、何より人間に大きなダメージを与えることを。恐らく、3年間のブランクで体験したことが生かされているのだろう。おかえり!ギドク様。彼の復活を祝いたい。
凶暴なエモーションと完璧な造形美の奇跡的共存!
キム・ギドク監督独特のアートフォームが完璧な造形美として結晶した大傑作。韓国映画で初の三大映画祭最高賞(ヴェネチア国際映画祭金獅子賞)を獲得し、彼の作品にしては珍しく興行的にもヒットしているが、実際、現時点の最高作と呼んでいいのではないか。例えば『悪い男』(02年)の愛する女を売春宿で働かせるヤクザにしろ、『絶対の愛』(06年)の恋人に飽きられることの不安から整形手術を繰り返す女にしろ、ギドクが扱う強烈な人物像やモチーフの核にあるのは常に「愛の飢え」である。それを今回は「ピエタ」=キリストを抱いた聖母マリア像という明確な宗教的イメージで持って、現代の神話へと昇華してみせた。魂の奥底に直接手を伸ばしてくる凶暴なエモーションを発揮しながら、同時にクラシックな端正さも備える、まさに天才の成せるワザ。ラストシーンはフェリーニの『道』(54年)と並ぶような映画史に残る永遠の名場面だ!