マンハント (2017):映画短評
マンハント (2017)ライター5人の平均評価: 3.4
日本ロケ映画の新たな幕開け
まずは大阪の街中をはじめとする、日本での大規模ロケを実現させた製作スタッフに賛辞を贈りたい。
憧れのジョン・ウー印の映画を日本で実現させたいという映画人のピュアな夢が周囲を巻き込んだ結果だと思うが、これで多少は日本はロケがしづらいという対外での悪評を払拭できたのでは?
その点で語り継がれる映画になるに違いない。
確かにツッコミどころは満載だ。
だがそもそもオマージュを捧げた『君よ 憤怒の河を渉れ』自体が相当ぶっ飛んだ佐藤純彌映画であった事を忘れてはいけない。
むしろ本家が熊の襲撃に新宿で馬を爆走させたことを思えば、こちらは正統派の趣すらある。
娯楽アクションとして文句ナシ!
ジョン・ウー御大の初期衝動が復活!
アヴァンタイトルの濃縮度が強烈! 『君よ憤怒~』のリメイク、というよりメタ視点からのオマージュを捧げたジョン・ウーのオリジナル・スタイルってことが明確に判るし、監督の実娘アンジェルスがいきなり大活躍。ギラギラした脂ギッシュなグルーヴ、舞踏的かつ劇画的なアクションの快楽。一目瞭然、ほとんどの画面に監督のサインがくっきり刻まれている。
ここ、マジで日本か? と驚愕する大きな空間把握にはやはり痺れる。高倉健あるいは國村隼つながりで補助線が引ける『ブラック・レイン』以来、約30年ぶりとなる大阪ロケの「洋画」としても楽しんだ。この世界観に、いつもと同じ音域のまま完璧にハマる福山雅治のブレなさも凄い!
元祖ジョン・ウー映画のセルフパロディのような大活劇
リメイクを標榜するが、『君よ憤怒の河を渉れ』はほぼ原案扱い。開巻、高倉健オマージュな居酒屋シーンも突如として“ガン・オペラ”に変貌し、福山雅治とチャン・ハンユーが徐々に接近するホモソーシャルな関係性を基軸とした、鳩も舞う『逃亡者』の趣。撮影監督=石坂拓郎、美術監督=種田陽平という布陣からも分かるように、香港映画の影響下にあった『るろうに剣心』『キル・ビル』成分も逆輸入。いつか観たジョン・ウー印満載の活劇だが、80~90年代をリードし引用されまくった様式美は懐メロと化し、自らを奮い立たせる元祖ウー演出は、セルフパロディに陥っていく。編集と音楽を変えれば印象が変わる可能性は大いにある。
ジョン・ウーならではの“バンカラ”が妙味
昭和の邦画のリメイク、もしくは昭和の日本文学の再映画化。舞台こそ現代だが、その時代のエンタテインメントが持っていた、ケレンや骨っぽさが息づいている。
男気が濃いのはジョン・ウー作品だから当然といえば当然。ハト、二挺拳銃、スローモーションといった彼のトレードマークはもちろん見どころだが、主人公ふたりが手錠につながれたままハードなアクションを演じ、その間に芽生える絆の逸話に胸がアツくなる。
福山雅治&チャン・ハンユーの熱演が光るのは、エモーシヨンを極めるウー節があってこそ。垢抜けなさに好き嫌いはあるだろうが、今や死語とも言える“バンカラ”な昭和テイストが活き、好感をとともに楽しんだ。
ジョン・ウーだから、あたりまえ!
男が抱かれたい男から、“撃たれたい(斬られたい)男”に。これまで観たことのない福山雅治の展示会状態である。それもそのはず、『SCOOP!』での最大の弱点だった監督が躊躇してる感が一切みえないのだ。ジョン・ウーだから、あたりまえ! そんな監督と演者のガチな関係が見えてくるからこそ、これでもかと畳みかけるアクションシーンの完成度も高い。ジョン・ウーだから、あたりまえ! もちろん、鳩もバイクもジェットスキーまでも飛び、BLっぽさも見え隠れ。もちろんジョン・ウーだから、あたりまえ!『頭文字D/THE MOVIE』『東京攻略』とともに、日本ロケしたギャガ配給の香港映画として語り継ぎたい一本である。