ミリオンダラー・アーム (2014):映画短評
ミリオンダラー・アーム (2014)ライター3人の平均評価: 3
A.R.ラフマーンがもし居なければ…。
実話であることはエンド・クレジットに表れる膨大な報道写真でも判るが、この監督&脚本の組み合わせにしてはありがちな“映画的お話”。メジャー・リーグがこんな単純な世界じゃないこと(そこをやや垣間見せるのがA.アーキンなのだが)は大人なら容易に察せられる…という点で、いかにもディズニーらしく甘口に仕上げられた作品だ(アニメーションのほうは最近過激なのになあ)。ただ、映画の出来をひとりで底上げするのがA.R.ラフマーンの音楽だ。まるでマニ・ラトナム作品における彼のようにやりたい放題、インド伝統楽器と詠唱、そして洋楽器とのミクスチュアも物語の展開に併せて構成され、画面よりむしろ音のほうに関心がいく。
人を育てることには重大な責任が伴う
落ち目のスポーツ・エージェントにとって、野球未開の国インドから大リーガーを発掘することは、いわば起死回生のビジネス・チャンスだ。
しかし、本来ならばインドの貧しい片田舎で一生を過ごすはずだった若者たちにしてみれば、大リーグへの挑戦そのものが人生を変える一大事。そのことを十分に理解していない主人公は、無意識のうちに彼らをゲームのコマとして扱ってしまう。欲に目がくらんで子供を搾取する親のようなもの。原石を育てられるような器ではない。
そんな俗物的な男が己の軽薄によって崖っぷちに立たされることで、初めて“親”としての責任と役割に目覚めていく。それこそが本作の醍醐味。爽快な感動を味わえる佳作だ。
インドの本格的香辛料は苦手でも、これは美味しい
インドの娯楽映画をハリウッド流にアレンジしたらこうなるのではないだろうか。「MAD MEN マッドメン」のジョン・ハム演じるスポーツ・エージェントが、インド青年2人をメジャーリーグの選手にするという、まるでウソみたいな実話を、"インド映画をハリウッド映画のフォーマットでカスタマイズする"という手法で映像化。この手法を象徴するのが、音楽。「ムトゥ 踊るマハラジャ」と「スラムドッグ$ミリオネア」の双方を手掛けたインド映画音楽の名手、A.R.ラフマーンが手掛ける音楽は、この映画同様、しっかりインド味だがけして濃すぎず、欧米の音楽に慣れた耳にも、否応無しに心地よい。
スラムドッグ・ミリオネア実話でいい気分!
インド人初のメジャーリーガーを見出したJB・バーンスタインの実話は、観賞後のスカッと感が半端ない。落ち目エージェントと野球初心者が困難を人情やガッツで乗り越える姿は出来過ぎなくらいにドラマティックだけど、見る人をインスパイアする。大金と欲が渦巻くスポーツ界を情熱で駆け抜けるエージェントはジェリー・マグワイアくらいかと思ったが、青年をメジャーリーガーに育て、自身も人間として成長するJBがいたのだ。相乗効果、万歳! 演じるジョン・ハムは『MAD MEN』のキザさが鼻につくが、本作の後半はいい人に見えてくるから不思議。彼を支える脇役もいいが、特に魅力的なのが偏屈な老スカウト役のアラン・アーキン!