オン・ザ・ロード (2012):映画短評
オン・ザ・ロード (2012)ライター2人の平均評価: 4
現代の観客へ向けたビートジェネレーション入門
原作を読んだことこそないものの、ビートジェネレーション文学としてタイトルくらいは知っていたので、こいつはきっと難解な代物に違いないと身構えたが、意外にもノスタルジックかつエバーグリーンな青春群像劇に仕上がっていて驚いた。
ビートジェネレーションとは、いわばヒッピーの前身。ドラッグやフリーセックス、東洋思想への傾倒などをアメリカで最初に実践した世代だと言えよう。当時の社会的価値観から大きく逸脱した主人公たちを、本作では現代の若者にも通じる普遍的なアウトサイダーとして捉え、理想と現実の狭間で揺れ動く彼らの友情を瑞々しく描く。案の定、原作ファンからは評判芳しくないようだが、もはやビートジェネレーションのなんたるかも知らない世代が圧倒的多数な現代人へ向けた映画化として、これは当然の解釈とアプローチであろう。いつの時代も変わらぬ青春の自由と挫折がここにある。
なお、清純派クリステン・スチュワートの大胆演技、エイミー・アダムスの別人かと思うような変貌ぶりもさることながら、ギャレット・ヘドランドの危うげなアウトロー美青年ぶりにゾクゾク。カメオ出演スティーブ・ブシェミとの“絡み”も必見だ。
ビートニク男子たちの「グッド・オールド・デイズ」
優等生的な作りだが、「原作の映画化」という意味では完璧に近いと思う。つまりジャック・ケルアックの『路上』が最先端の小説ではなく、スタンダードな古典として根付いた時代の視点として。製作総指揮のコッポラは、70年代にはゴダール、90年代にはガス・ヴァン・サントに監督の話を持ちかけたらしいが、もし当時映画化が実現していたら、もっとビートニクのオリジナルに近い速度と前衛性を備えた作風になっていただろう。
だが、結構マッチョなホモソーシャルの世界で、女性はマスコット扱いというこの青春像は、実は今の感覚で見るとかなり古臭い。その点、この映画は「グッド・オールド・デイズを振り返る」という的確な距離感で捉えているため、“ロマンティックな男子たちの神話”として端正にパッケージングされている。
監督のウォルター・サレスは『モーターサイクル・ダイアリーズ』で若き日のチェ・ゲバラを描いたが、本作も伝記映画として鑑賞するのが正解かも。尤もお行儀の良さを物足りなく感じた人には、ガチでモラトリアムな自由への希求を刺激する傑作として、ショーン・ペン監督の『イントゥ・ザ・ワイルド』をおすすめしたい。