プリデスティネーション (2014):映画短評
プリデスティネーション (2014)ライター4人の平均評価: 3.8
原作のトリックは、実は映画向きだった
この映画をネタバレなしに紹介するのは難しい、と言ってしまうとそれも一種のネタバレかと気づき、この状況もなんだか原作小説の邦題「輪廻の蛇」のような。実は小説の原題は「All You Zombies(おまえたちゾンビはみんな)」で映画でも主人公の独白に登場、ゾンビ映画「アンデッド」でデビューした本作の監督コンビ、スピエリッグ兄弟は、この原題に惹かれたのに違いない。原作のトリックは、映画でやるのが難しいように思えるが、実は映画だからこそ効果的な仕掛けが可能なトリックだった。この映画を見るとそれが分かる。原作を読んでそれを見破ったことが、この兄弟監督の映像作家としての感度のよさを証明している。
セーラ・スヌークが、若き倍賞千恵子に見えたのはなぜか!?
時をかけるイーサン・ホーク。いや、閉じた“時の環”の中を行き来し、ウロボロスの蛇となるタイムトラベラーの憂鬱。「俺は俺のおじいちゃん」と歌う、ロンゾ・アンド・オスカーのシニカルな「I'M MY OWN GRANDPA」をジュークボックスから流す周到なたくらみ! 双子監督による才気を楽しめる。が、重要であることは分かっていても、やや前半の会話劇がタルいか。その分後半はサービス過剰、加速がついて勢い余ってもう怒濤の展開なのだが。この冒険的な映画化の立役者、セーラ・スヌーク嬢のルックスが若い頃の倍賞千恵子とダブったのは、誰かが時を超えてやって来てボクに刷り込んだせいだろう……きっとそうに違いない。
禁断のパラドックスを垣間見る、異端のタイムトラベル映画
短編小説の映画化は映像作家の実力を証明する最良のチャンスだが、ロバート・A・ハインライン作「輪廻の蛇」から、こんなにも豊かな“人間の宿命”が紡ぎ出されるとは驚きだ。バーテンダーへの自分語りで始まる、ある男の数奇な半生。物語に引きずり込まれると同時に、衣装に腕時計そして小粋な“時間旅行ガジェット”といった美術にも目を凝らしてしまう。これは禁断のタイムパラドックスを垣間見る、異端のタイムトラベル映画だ。おっと、これ以上の予備知識は不要。あとはスクリーンに身を委ね、ストーリーテリングの妙と卓越した映像センスに酔えばいい。メガホンを執ったマイケル&ピーターのスピエリッグ兄弟の今後の動向は要チェック。
タイムパラドックスSFの極北に挑戦!
ロバート・A・ハインラインの短編小説『輪廻の蛇』の映画化……というだけで、原作を知っている人は「なんて大胆な!」と驚くはず。極めてトリッキーな展開の上、映像には不向きな大ネタを含んだ話だから。しかし「バーで身の上話を語り出す青年」に扮するサラ・スヌークの好演もあり、珍作すれすれの処を巧く駆け抜けていった。
ただ前半は文句なく面白いのだが、後半、イーサン・ホーク扮する男がメインになってから語りの強度がやや落ちるのが惜しい。とはいえタイムパラドックスSFが好きな人は必見だろう。監督は『デイブレイカー』のスピエリッグ兄弟。冒頭、1970年のパートにストゥージズの「1970」を流すセンスにも痺れた!