ジャングル・ブック (2016):映画短評
ジャングル・ブック (2016)ライター6人の平均評価: 4
ファヴローのおとなこどもなセンスが至福の画を!
やはりジョン・ファヴローに外れはなかった。“少年以外すべてCG”が売り物とはいえ、ここまで徹底的にリアルに作りこめばもうなんでもできちゃうんじゃないか、という実写映画の根幹を揺るがす作品だが、もっとも驚くべきは動物たちで質感も動きも本物にしか見えないのに微細な表情の変化が実に豊か。過去のディズニー的表現とは異なるが、ここまで巧みな擬人化を成し得たのには伝統的な動物観察の力もあるだろう。モーグリたちの冒険も人間へのシニカルな視点も、ときに厳粛な空気になるほど怜悧。でもビル・マーレイやクリストファー・ウォーケンがのうのうと’67年アニメ版の名曲を歌っちゃう素晴らしきギャップに嬉しくなる。
エコな時代の新たな映画作りの提案
ネイチャー・ドキュメンタリーならまだしも、フィクションならば”人間以外すべてCG”は有り。
映画の撮影は少なくとも動物に負担を与え、大勢のクルーの立ち入りは自然を荒らす。
CGで動物がリアルに見えなかったら興ざめだが、そこはさすがのディズニー印。
生態を研究し尽くして再現したであろう動物たちに違和感ナシ。
中でもヌーの大移動シーンの迫力と恐怖にゾクッ。
エサのある草原を求めての行動だが、ぬかるみに足を取られたり、崖に落ちたり、弱いモノはどんどん脱落していく。
そんな容赦ない世界で、少年は動物に学びながら成長していく。
製作体制含め、自然と動物に対する畏敬の念が作品全体に溢れている。
完成度の高いCGは文句なしに素晴らしい
古くは戦前のインド人スーパースター、サブーの出世作として、さらに戦後はディズニーアニメとして、幾度となく映像化されてきた古典「ジャングルブック」を、改めてディズニーが実写化した作品だ。
ジャングルでオオカミの子として育てられ、人間を憎むトラに追われた少年モーグリが、様々な動物との交流を通して、自分らしい生き方を模索していく。アニメ版を基調にしつつ、子供だけでなく大人にも訴求する上質なドラマが展開する。
しかし、なんといっても白眉なのはCGの出来栄え。ジャングルの湿った空気や舞い飛ぶ小さな虫まで丁寧に再現。もはや現地ロケにしか見えない。動物たちも「ターザンREBORN」より遥かにリアルだ。
自然界で生きることの苦さもきちんと伝えた冒険潭
名作アニメをわざわざ実写化しなくても、と思いつつ見たら……、これが素晴らしい! CGと特撮を駆使した映像の美しさはもちろん、緩急を極めたストーリー展開で観客をダレさせないジョン・ファヴロー監督の手腕にうなる。主人公モーグリを演じた子役は身体能力の高さと愛嬌が魅力だ。そして彼を取り巻く動物の声を当てたビル・マーレーやクリストファー・ウォーケンをはじめとする名優陣がキャラの個性を巧みに表現し、物語を生き生きと輝かせる。生きるために殺す動物であっても干ばつ時は湖の周辺では殺戮禁止といったジャングルの掟に生態系の調和を感じる。単なる子供映画ではなく、自然界で生きることの苦さをきちんと伝えた快作だ。
子供たちにしっかりトラウマを植え付ける
ほぼ『ターザン』化したディズニー×スティーヴン・ ソマーズ監督版が“なかったこと”になってるのは悲しいが、今度は『アイアンマン』いや『エルフ~サンタの国からやってきた~』のジョン・ファブロー監督作。実際オマージュも捧げられている『キング・コング』以来、WETAらしい技術炸裂のキング・ルイや、主人公・モーグリの権威として徹底的に立ちはだかるベンガルトラのシア・カーンなど、アニメ版の面白キャラを払拭し、ほのぼの系を期待した子供にしっかりトラウマを植え付ける仕上がりになっている。“少年以外、全部CG”がどこまで売りになるかは不明だが、『ターザン:REBORN』と、ジャングルの王者を決めるのも一興。
実写版になってもクマのバルーは最高!
リアルとファンタジーの配合具合が絶妙。なるほど、実在する動物たちを描くなら、その動きに人間の俳優のモーションキャプチャーを使う必要はなく、むしろ、その動物固有の動きをさせるほうが、その存在がリアルに感じられるのだと痛感。動物が主人公の少年と同じ言葉を話すときも、彼らの口が少年と同じように動く必要はない。同じように、ジャングルの風景にもストーリーにも、リアルさとファンタジーが共存している。
加えて、ビル・マーレイが声を演じるクマのバルーが最高。アニメ同様、このクマがいることで映画がより楽しくなる。監督は「アイアンマン」のジョン・ファヴロー。彼の体型はバルーっぽいが、キャラも似てたりして。