バトルフロント (2013):映画短評
バトルフロント (2013)ライター6人の平均評価: 3.7
“いい仕事”っぷりを支えるキャスティングの妙。
スタローンはときに野心的な脚本をモノする映画作家の顔もあるが、これはかなり気合が入っている。『エクスペンダブルズ』シリーズでひとりマトモに身体が動く (なおかつブルーカラーの哀愁を漂わせた)J.ステイサムに主役を、地味だが堅実にサスペンスを構築するG.フレダーに監督を託し、アクション・シーンに劣らぬ丁寧さで描いていくのは善悪双方の親子関係。これが初というステイサムの父親役、その愛を利発に受け取る娘(I.ヴィドヴィッチ好演)もさることながら、モンスターペアレント化しクスリで壊れていく母の姿(これがK.ボスワースってキャスティングも凄い)に陰で涙する少年をしっかり捉えるショットがやけに印象的だ。
ステイサムに守れたい!という女子の願望を刺激する1本
スタローンが、ご老体総出演映画『エクスペンダブルス』シリーズ最大の功労者に捧げた作品だ。悪から愛娘を守る父。その単純な構図を彩るのはもちろんステイサムのアクションだ。そして敵役も不足ナシ。
J・フランコが麻薬密売組織のボス役というのは想定内。だが彼女で娼婦にW・ライダー、ジャンキーな妹にK・ボスワースと新旧青春映画のヒロインの汚れっぷりがすさまじく、見ている方が動揺してしまいそうだ。
そんな実力俳優を従えてのステイサム主演作乱発の背景には、映画産業におけるアクション至上主義があるのだろう。しかしCG全盛の最中、生身の人間が闘う姿はやはり美しく、彼に託す気持ちもむべなるかなと思うのだ。
肉体派から肉体派へ、受け継がれるウルトラCの妙技
スタローン脚本&ステイサム主演という看板は『エクスペンダブルズ』的な筋肉祭を期待させるが、こちらはシリアス。なおかつ意外性があり、ウルトラC的展開の驚きを味わえる。
発端は田舎町での子供同士のケンカで、それが親同士のいさかい、さらには元麻薬捜査官VS麻薬組織の対決へと発展。小川が大海へとなだれこむような怒涛の展開がスリリングで面白い。
背景に田舎町の閉鎖性があるが、思い返せばスタローンは『ランボー』でも田舎町を舞台に、軽度のトラブル→軍投入の大騒動というウルトラC的展開を説得力とともにこなした。そういう意味ではブレがないし、裏を返せばステイサムは彼の正当な後継者と言えるかもしれない。
スタローンが後輩に託した、もうひとつの「ランボー」
スタローン御大が製作と脚本だけに徹し、後輩ジェイソン・ステイサムに華を持たせた新作は、閉鎖的で荒みきった田舎社会のどす黒い闇をバイオレンスたっぷりに描く“もうひとつの「ランボー」”だ。
暗い過去を捨てて平凡な田舎町に移り住んだ元麻薬捜査官と一人娘を待ち受けていたのは、貧困と薬物に蝕まれた地方社会の現実。しかも、住民の多くはよそ者に冷たい。そんな親子に麻薬組織の毒牙が迫る…というわけだ。
頼りになるのは自分だけ、ということで娘を守るべく暗殺集団に一人で立ち向かう主人公。こういう映画を見ると、どれだけ悲惨な事件が起きても拳銃を手放そうとしない米国人の心理の一端が伺えるようにも思う。
いろんな意味で期待を裏切るスライ脚本作
スタローンが後輩ステイサムに主演を託した…というと、どんだけ筋肉バカなノリかと思うかもしれないが、スライ本人が書いた脚本は“『ランボー』最終章”ともいえるアメリカの闇。しかも、監督は『コレクター』『ニューオーリンズ・トライアル』と、地味ながらキャストの使い方がやたら巧い職人、ゲイリー・フレダー。ということで、愛娘と再出発した元潜入捜査官(現役時代は長髪!)に襲い掛かるサスペンスは、かなりの見応え。しかも、彼を追い込むラリパッパ・カップルを、なぜかジェームズ・フランコ&ウィノナ・ライダーが怪演。本来、悪役であるはずのクランシー・ブラウンが人のいい警官役をと、いろんな意味で期待を裏切ってくれる。
スタローンDNAのステイサムが良すぎ、面白すぎ!
スタローン(製作・脚本)が自ら主演するなら『オーバー・ザ・トップ』の頃がベストか。しかし英国流クールネスを備えたJ・ステイサムがやると「父ちゃん」が「パパ」にイメージ変換される。このバトンリレーは絶妙だ。『エクスペンダブルズ』が『ランボー』の正統的継承だとしたら、こちらはスタローンのサブテーマ的な人生の哀愁を旬の色気に昇華!
内容も米国の閉鎖的なド田舎の恐怖という『悪魔のいけにえ』などホラーの定石をポリスアクション系に応用した優れもの。超トラッシュなヤンママ役のケイト・ボスワースなど、脇の役者陣もやたら濃厚な怪演ぞろい。ザ・ブラック・キーズなど田舎ロックの選曲も70年代リモデル感ばっちりだ。