利休にたずねよ (2013):映画短評
利休にたずねよ (2013)ライター2人の平均評価: 3
美術チームの見事な仕事ぶりに尽きる
『火天の城』で城作りの過程を見事に再現してみせた田中光敏らしく、ディテールに凝った美術やセットによる画作りは見応えがある。
ストーリーテリングが上手くないのは残念だ。利休が切腹に至るまでの過程と並行して描かれる、彼が終世胸に秘めたものとは何かというミステリーの引っぱりがキモであるにも関わらず機能していない。よって終盤で明かされる本作の核心が、唐突に感じられて鼻白む。
市川海老蔵の役作りは評価が分かれる点だろう。挑戦的で斬新な利休像を体現する一方で、終始力んだ演技は全てが絵空事にも思えてしまうし、『一命』ともかぶる。映画全体を一種の様式美と捉えるならば、海老蔵のアプローチは正解と言えるか。
高級茶CMヴィジュアル×韓流風ロマンス
映画の中の千利休といえば、三船敏郎や三國連太郎ら名優が晩年に挑むイメージが定着していた。市川海老蔵という意外性には膝を打つ。所作の世界という共通項が求道者を表現する上でハマり、これまでの利休像を打ち破る。むろん「おーいお茶」とは叫ばず、映像的にはむしろ高級茶CMのように、至って厳か。シネマスコープによる国宝級建造物ロケは、どのカットも美しい。ただ、あまりに画が完成されすぎ映画的ダイナミズムは乏しい。
肝は何か? 「世の中を動かしているのは力と金だけではない。私がぬかずくのは美しいものだけ」と悟った利休の美意識の原点が、実は、浮き名を流し暴走した青二才時代の狂気にあったという仮説だ。主演俳優の近過去がダブり、すったもんだはあったが、こうして花の海老さまも「枯淡」に向かうという架空ドキュメントにさえ思えてくる。
利休が変心していくきっかけとなるのは、高麗の女。韓国女優クララの魅力が後半を牽引する。許されぬ恋に若き日の利休は燃え上がり、悲劇を招いてしまう。しかし韓流風ロマンス場面は通俗の極みに映り、芸術家が到達した境地のルーツであるという説得性は弱い。