ベルリンファイル (2013):映画短評
ベルリンファイル (2013)ライター3人の平均評価: 3.7
心をえぐるヒリヒリとした諜報戦
『シュリ』が情緒過多な演歌に聞こえ、『ミッション:インポッシブル』が無意識過剰なトムのグラムロックに思えてくるほど、『ベルリンファイル』は辛酸を舐めた者にしか分からない、心をえぐられるようなヒリヒリとしたジャズだ。
ストーリーは込み入っている。詳細を理解しようと思えば、1度目の鑑賞では取り残されるだろう。主人公は北朝鮮のスパイ。南北朝鮮の分断が生んだ緊張に、アメリカ、ロシアのみならず、アラブとイスラエルの思惑も絡まり合い、ベクトルが錯綜する。冷戦以降のインターナショナルな諜報活動のリアルが、ここにある。
舞台はかつての分断都市ベルリン。観光映画に堕することなく、ぶっきらぼうに切り取る。ハ・ジョンウの面構えが不敵でいい。銃撃戦も格闘戦も切迫度が高く、北朝鮮の格闘術「撃術」はキレ味満点。裏切り者は誰か。身近な者ほど信頼出来ず、こちらまで情緒不安定に陥りそうになる。チョン・ジヒョンの疑心暗鬼な表情は、もっと評価されるべきだ。
渋い! 言わば『シュリ』×『裏切りのサーカス』
この映画の真のテーマは、クラシックなスパイ映画をいかに現代的に再生させるか、とのある種マニア的な試みではないか? おそらくカギになるのは英国のミステリー作家、ジョン・ル・カレだ(彼の本が画面にちらっと映る!)。冷戦時代の東西分断の象徴であるベルリンは、同時にル・カレの代表作『寒い国から帰ってきたスパイ』など、スパイ小説の定番の舞台でもあった。韓国映画の本作がわざわざベルリンを舞台にしているのは、何よりも往年のスパイ物へのオマージュだと考えていい。朝鮮半島の分断をエンタメ化する流れは『シュリ』から始まったが、『ベルリンファイル』は南北闘争よりも北朝鮮内部のこじれを核として中東も絡めたパズル的な脚本構造を取っており、まさにル・カレの原作を端正に映画化した『裏切りのサーカス』に近い。前半は複雑な人間関係を把握することに集中してほしい。後半は「目指せ『ボーン』シリーズ」とばかりに、活劇の興奮へと沸騰していくから。
朝鮮半島の悲哀を滲ませるリアルなスパイ劇
民族分断の象徴でもあるドイツのベルリンで、韓国と北朝鮮の壮絶な諜報戦が繰り広げられる。CIAやモサド、アラブのテロリストにロシアの武器商人まで絡むインターナショナルな設定のワリに、スケールは意外と小ぢんまり。冷戦時代の東西スパイ活動を身近に感じて育った身としては、007的な荒唐無稽さと一線を画した演出には説得力を感じる。まあ、それなりに映画的なドンパチ&肉弾アクションはあるけれども。ただ、金正恩政権のどす黒い陰謀でも浮かび上がるのかと思いきや、結局はただの内紛ですか。ハン・ソッキュの下手クソすぎる英語もちょっと気になるポイント。とはいえ、同じ民族同士で南北が憎しみ合うばかりか、それぞれの味方同士でも足の引っ張り合いをする朝鮮半島の悲哀は痛切なくらい滲み出て印象深い。