ひろしま 石内都・遺されたものたち (2012):映画短評
ひろしま 石内都・遺されたものたち (2012)被爆死者の遺品と対話する有意義な時間
写真家の石内都さんは2007年から、広島平和記念資料館に収蔵されている被爆死者の遺品をフィルムに収める「ひろしま」シリーズを手がけている。本作は、撮影風景からカナダ・バンクーバーで開催された展示会まで追ったドキュメンタリーだ。目を引くのは、女性たちが身につけていたレースのワンピースや水玉のブラウスといった衣服たち。石内さんは、防護服の下でこっそりおしゃれを楽しんでいたであろう女性たちの青春を見事に切り取っているのだ。バンクーバーの展示会でも、ただ単に「美しい」と、この写真に魅了されている若い女性がいた。哀しい現実を突きつけるばかりが、戦争の悲惨さを伝える手段ではない。戦時中にも確実にあったであろう被爆死者の輝かしい時に思いを馳せ、彼らの人生を想像してみる。そんな有意義な思考の時間を与えてくれるドキュメンタリーである。
この短評にはネタバレを含んでいます