鑑定士と顔のない依頼人 (2013):映画短評
鑑定士と顔のない依頼人 (2013)ライター2人の平均評価: 3.5
作品そのものが最高級アートの趣(おもむき)
古典的な正統派イタリア映画とトリッキーなミステリーを行き来するトルナトーレ監督だが、本作はその後者の部類に入る。
傲慢でプライドの高い一流鑑定士と決して人前に姿を見せない依頼人という、いわば世間から隔絶した男女2人が美術品を介して通じ合っていく過程には、孤高の人間ならではの複雑な感情が丁寧に織り込まれて興味深い。また、ゴージャスで耽美的なカメラワーク、監督の演出意図を的確に汲み取ったモリコーネの幻惑的な音楽スコアにも魅了される。作品そのものが最高級アートの趣(おもむき)だ。
それだけに、どんでん返しのためのどんでん返しとしか思えない結末が惜しまれる。賛否両論の分かれる点だろう。
トルナトーレ監督、いい仕事してますねえ!
「とにかくストーリーテリングを堪能したい!」という映画ファンには、いまコレを推したい。主人公は美術品に人生のすべてを捧げ、恋愛経験ゼロのまま老境に達しようとしている天才鑑定士(劇中で童貞と告白!)。そんな彼のもとに謎の美女が現れ、遅すぎる色ボケが狂い咲く……という滑り出しから「本物と贋作」を主題とした物語に誘い込む展開が実に巧妙。初見の驚きに加え、細部の抜かりない仕掛けゆえリピーターを呼び込む力は『ユージュアル・サスペクツ』のレベルに肉薄している。
ジュゼッペ・トルナトーレ監督といえば『ニュー・シネマ・パラダイス』や『海の上のピアニスト』などヒューマン系のイメージが強いが、そもそも長編デビュー作の『“教授”と呼ばれた男』を始め、『記憶の扉』や『題名のない子守唄』といった心理操作や記憶をモチーフとする渋いミステリーの作り手でもある。今作はそっちラインの到達点と断じても過言ではない。
ミスリードを鮮やかにキメる作劇(脚本もトルナトーレのオリジナル)はトリッキーという形容も可能だが、演出はひたすら正攻法。丁寧で律儀な仕事の積み重ねこそが表現の奇跡を起こす良い見本でもあるだろう。