マイヤーリング (1957):映画短評
マイヤーリング (1957)ライター3人の平均評価: 3.7
米テレビ界の歴史を知る貴重な映像資料
有名なオーストリア皇太子ルドルフと貴族令嬢マリーの悲恋物語を、オードリー・ヘプバーン&メル・ファーラーの夫婦共演で描く生放送のテレビ映画。’51年の「アイ・ラブ・ルーシー」を契機にフィルム録画放送の普及した米テレビ界だが、一方で本作のような生番組も多かったのだ。
ライブゆえの様々な制約は製作規模や撮影技術にも反映され、やはり劇場用映画に比べると見劣りすることは否めない。が、同時に撮り直しのきかない緊張感は役者の演技やカメラの動きなどから如実に伝わり、よくぞ生でここまでやったという感慨も生まれる。オードリーの幻の作品というだけでなく、米テレビ界の歴史を知る貴重な映像資料として一見の価値アリ。
女優の生き様は佇まいに表れる
O・ヘプバーンが1957年に出演したTVドラマを、最新デジタル技術で復元した幻の作品だ。当時は生放送だったが、別撮していた実景やセットを巧みに使って場面を切り替えている。その技術力と製作者たちの志しの高さを再発見するだけでも、今、公開されることの意義を感じる。
同時に再認識させられるのは、ヘプバーンという女優の唯一無二の存在の偉大さだ。本作は『ローマの休日』のイメージを彷彿とさせる一瞬の恋に燃える男爵令嬢役だが、変わらぬ透明感と気高さ、再び彼女に恋してしまう人も多いのでは? 晩年彼女はユニセフ親善大使として人生を捧げたことで知られるが、カメラは間違いなく、演者の内面を写し出すのだ。
アメリカのTV史を紐解く上でも興味深い
先頃、アメリカの放送局NBCでミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』がライブ放送されて話題を呼んだが、かつてTV放送はライブだった。'57年に同NBCの「プロデューサーズ・ショーケース」でライブ放送された本作は、CMの間に衣装替えといった舞台裏の過酷さを想像しつつ、オードリー・ヘプバーンとメル・ファーラーの気品あふれる演技を観ると、また違った感慨があるだろう。
物語は「許されぬ恋に落ちた2人の悲恋」とわかりやすくドラマチック。在りし日のオードリーに思いを馳せつつ、ノスタルジーに浸るのもよし。あるいは当時のTV事情を紐解くきっかけとして、また今のTV事情を鑑みる上でも興味深い作品だ。