愛して飲んで歌って (2014):映画短評
愛して飲んで歌って (2014)ライター2人の平均評価: 3.5
巨匠が最後に遺した愛すべき人生讃歌
昨年の3月に91歳で亡くなったフランスの巨匠アラン・レネの遺作は、イギリスの劇作家アラン・エイクボーンの舞台劇の映画化。映画と演劇の要素を洒落た遊び心で自在にブレンドし、茶目っ気溢れる風刺ユーモアで包み込んだ大人向けのライトコメディだ。
最後まで姿を見せないモテ男を巡って、3組の熟年カップルが右往左往。妻たちの噂話や憶測が誤解とすれ違いを生み、過去の過ちや秘密が主人公たちの関係を翻弄する。だが、物語は事の真相をあえて見せない。
真実なんてどうでもいい、人生はただでさえややこしいのだから。ならば、愛して飲んで歌って、思い切り楽しみなさい。巨匠が最後に遺したメッセージはシンプルで前向きだ。
ジョルジュ、映画にゃ出てこないってよ。
題名ほど能天気ではないA.レネの遺作。それは恋愛模様の中心にいる「ジョルジュ」がずっと劇中に現れないという不穏さによる。常連俳優によるフランス語劇なのに舞台はイギリスと言い張ったり、ほとんど全篇、簡易化された舞台装置のような書き割り(というかペイントされたカーテン)の前で展開したりといった仕掛けも人を食っている。でも晦渋さはなく、『アメリカの伯父さん』を想わせるモグラくんが途中二回出てくるものの、かつてのような冷笑的視点はここにはない。次作も準備していたというので安易に結びつける気はないけれど、死が迫っても若さを求めつづけたジョルジュにどうしてもレネを重ね見てしまうのだがな。