百円の恋 (2014):映画短評
百円の恋 (2014)ライター5人の平均評価: 3.8
荒んだ現代社会に怒りの拳をぶつける女
自堕落に生きるクズ同然のニート女が実家を追い出され、世間の理不尽な厳しさに鬱屈したものを抱えつつも、やがてその不満と怒りをボクシングにぶつけていく。
なんたって、全編に渡る安藤サクラの熱演と怪演が白眉。ボクシング・シーンの本気度にも圧倒されるが、冒頭の人生も女も捨てきったケダモノぶりがまたドン引きするくらい凄い。
労働者を搾取するブラックな職場環境、他人に優しくする余裕すら持てない人々。荒みきった現代日本社会の底辺で、生きる目的も気力も失った若い世代の、これはいわば覚醒と再生のドラマだ。若者よ、もっと怒れ、もっと貪欲になれ!と喝を入れるかのようなエネルギーを感じる。
脚本・演出がサクラに及ばず隔靴掻痒。
安藤サクラが少なくとも今の日本映画の一面において最強の女優であるのは疑いない。掻き痕だらけの汚いケツをさらけ出すアラサー女が肉体改造し、ついには狂犬の目をしたボクサーへと変貌。それを実際にやってのける彼女にはもう凄味しかないが、作品としてはそれだけ。ひたすらウザい中年店員(坂田聡、仕事激増の予感)も、廃棄弁当に食い下がるホームレスおばさん(根岸季衣)も、うんざりするほど繰り返される百円コンビニのBGMともども最低すぎて印象的だがあまりにあっさりとドラマから消えるし、なにより納得できないのはクズ男・新井浩文との決着だ。この締りのなさ同様、クライマックスの試合もモンタージュ緩すぎ。
役者はカラダが資本です
安藤サクラのボクシングシーンが話題だ。それだけじゃない。当たり前のように濡れ場で裸身を魅せる。その覚悟や気迫にただ、ただ圧倒。彼女をそこまで本気にさせた脚本やスタッフも評価すべきだろう。
とはいえ欧米女優にすれば「作品に必要なんだから、当たり前じゃん」と鼻であしらわれそうだが。それが特筆されてしまう日本の芸能界の現状を憂慮することも忘れてはならない。
欲を言えば、新時代のカッケー女を体現してくれるかと思いきや、肝心の恋はバックに「神田川」が流れそうな昭和テイスト。特にラストは…ハードボイルドにキメて欲しかったぜ。
安藤サクラのスゴさに尽きる
言われなくても、安藤サクラがスゴい女優なのは分かるだろう。それだけハードルを上げて観ても、デ・ニーロ・アプローチで攻めてくる本作の彼女は、一時期のジェニファー・ジェイソン・リーを彷彿させるほどスゴい。とはいえ、それに尽きるのも事実。このダメ・ヒロインを彼女より知名度のある女優が演じれば、さらに評価されるだろうが、彼女で収まるあたりが、日本映画界の現状を物語っている。無骨さや直球さは本作の持ち味といえるが、あまりに脚本に捻りがない。最終的に無軌道に突っ走る、投げやりにしか思えないサブキャラ2人の末路には首を傾げるし、子役の使い方が巧い武正晴監督ながら、甥のキャラをもっと生かせなかったのも残念。
激安女子のハードコアファイト――安藤サクラ is No.1!
死ぬかってほど号泣。きょうは会社休みます――どころかバリバリニートの32才下流乙女が、百円(税込)コンビニのバイト&痛い目を経て『あしたのジョー』的世界に身を投じる!
……と書くとアナクロの極致っぽいが、この「若くない」青春模様は、ファスト風土化以降の貧困の現在をリアルに踏まえたもの。やたら上から目線のカスなおっさん(坂田聡、名演!)のDQN感など脇の群像も生々しい。
クリープハイプの主題曲も最高。むろん映画の感動を牽引するのは、背中のお肉がぶよっとハミ出す自堕落な体からキレキレにシェイプしていく安藤サクラの完全燃焼だ。『0.5ミリ』と連発KO。デ・ニーロやD・バリモアに観て欲しいっすよ!