ブラックハット (2014):映画短評
ブラックハット (2014)ライター4人の平均評価: 3.3
俺たちのマイケル・マン、リターンズ!
デジカメを駆使するようになった、ここ10年ほどのマイケル・マン監督のスタイリッシュなドキュメンタリー・スタイルを評価するか否かで、本作の評価は分かれると思う。それがどうも煮え切らなく見えた自分には、今回は久しぶりの快作となった。
肝となるのは、クリス・ヘムズワースふんする主人公の暴れっぷり。天才ハッカーにしてタフガイという現代的なスーパーマン像は、ある意味『マイティ・ソー』以上に劇画的だ。
振り返ると、『ラスト・オブ・モヒカン』から『ALI アリ』までのマンの(私的)黄金期は、主人公の骨っぽさという点にブレがなかった。そんな男気が甦っただけで嬉しくなる。
今日的な題材をサスペンスに生かしきれず
世界規模のサイバーテロを阻止すべく、刑務所に収監中の天才ハッカーがFBIに雇われる。それ自体は使い古された筋書きだが、本作は情報戦において互いに敵対するアメリカと中国の合同捜査という設定に目新しさがあると言えよう。
とはいえ、その辺の掘り下げはいまひとつ。ネタバレになるので詳細は省くが、落としどころとしては安全パイを選んだという印象だ。サイバーセキュリティの問題を含め、今日的な題材がサスペンスとして上手く生かしきれていない。
加えて、サイバー捜査をメインにした展開はどうしても地味になりがちだ。現実に起こりうる犯罪を描くというM・マン監督のリアリズム志向が、今回は裏目に出たようにも思う。
マイケル・マンだとサイバースペースもこうなる
マイケル・マン監督は、サイバースペースを概念ではなく物質として描く。冒頭、カメラは地球の表面を覆って飛び交う電子信号の網を捉え、それにズームインし続けて、コンピュータのケーブルを辿り、基盤に入り、電子のパルスが、ON/OFFの信号になるまでを、"物"として映し出す。この監督はまず、世界はそのように出来ていると宣言する。なので、今回の事件はサイバー犯罪、主人公は天才プログラマーだが、語られるのは、いつもと同じ、この監督流の男と男の友情の物語。「マイティ・ソー」のクリス・ヘムズワースは天才プログラマーとしてキャスティングされたのではなく、マイケル・マン映画の男を配役されていて、似合っている。
それでもマイケル・マンが好き!
『パブリック・エネミーズ』以来、5年ぶりのマイケル・マン体験をどう捉えるべきか。アッテイカス・ロスによる不穏な音楽が流れるなか、淡々とハッカーを追い詰めていく展開。『マイティ・ソー』と同一人物とは思えない、クリス・ヘムワーズの漂う色気。そんな彼がマサチューセッツ工科大卒の天才ハッカーにしては、俊敏すぎる動きで魅せるド派手な銃撃戦。まるで『マイアミバイス』姉妹編に見えるタン・ウェイとのコンビなど、ツッコミどころ満載ながら、どこを切ってもマイケル・マン飴状態。いつも通りに裏切っちゃくれないアンディ・オンなど、どこか欠けたピースを自分で補わなきゃいけない不完全さも、本作の魅力の一つだったりする。