ミルカ (2013):映画短評
ミルカ (2013)ライター2人の平均評価: 4.5
この監督も崑さんの『東京オリンピック』好きなのね。
印パ紛争の中、難民としてインド側にやってきた少年が国家的アスリートとなる物語だが、なぜローマ五輪の試合でゴール間近で後ろを振り向いたのか、なぜパキスタンとの親善試合をそれほど頑なに拒否するのか?という二つのミステリからなる構成。最初の謎は映画的口実に過ぎない気もするが、パキスタンとの恩讐の物語は圧倒的な音響とのコラボレーション(とりわけ凄いのは最終シーンまで引っ張られる、追いかけてくる馬のヒズメの音だ)とも相俟って、非常な強度でドラマにのめりこませる。なにより説得力があるのはF.アクタルの肉体改造そのものなのだが。現地版との差異が最小限に抑えられているのもいい(潤いは若干薄めだけど)。
激動の近代史に翻弄された国民的英雄の苦悩と再生
今から55年前のオリンピックでメダルを期待されながら、思いがけない失態を演じてしまったインドの国民的陸上選手ミルカ・シンの数奇な半生を題材にした伝記映画。
パキスタンの分離独立で家族を虐殺され、運動靴も買えない極貧生活から文字通り裸一貫で成り上がったミルカ。本作は宗教対立や貧富の格差、女性蔑視といった現在も続くインドの深刻な社会問題を絡めつつ、激動の近代史に人生を翻弄されたミルカの苦悩と再生を感動的に描いていく。
ダイナミックで迫力のある陸上競技シーンも素晴らしく、スポーツ映画としても見応え充分。体脂肪率5%まで鍛え上げたF・アクタルの力演と、憂いのある素朴な二枚目ぶりも要注目だ。