幕が上がる (2015):映画短評
幕が上がる (2015)ライター3人の平均評価: 4.7
演じることで素が露わになる、ももクロの奇蹟的なドキュメント
5人のキャラを生かした役柄でありながら、いつも全力投球のアイドルとは異なるももクロがいる。生硬さが目立つ序盤から終幕へ向かうにしたがい、高校演劇部員たちは女優になっていく。少女の今をキャメラが追いかけるドキュメントという意味において、まさに正統派アイドル映画。普通の女の子との境界線を漂う彼女たちは、演じることでアイドルの仮面を脱ぎ、思春期の素を露わにする。女優の夢を捨てた教師役として彼女たちを牽引する、黒木華の存在感が絶品だ。ヨーロッパ企画と組んだ作品では演劇的なフォーマットを残していた本広克行演出は、平田オリザと組むことで絶妙なセリフの間と表情を得て、奇蹟的かつ映画的な瞬間をすくい取った。
ももクロにはアンサンブル演技賞を用意しなきゃね!
こりゃいつの時代も愛されるに値する傑作だ。自分のやりたいこと・やるべきことを見つけていく過程だけを尋常じゃない熱度で追いかける超真剣な青春映画、恋愛要素がゼロなのも潔い。冒頭や夢のシーン(+ムロツヨシの演技)こそ、いつものガチャついた本広克行っぽさはあるが、それさえいい息抜きと感じられるほど。とりわけ黒木華がある“豹変”を見せるシーンから、ももクロも物語もドライヴかかりまくり。どこまで行っても辿りつけないが、創造し続けなければ“果て”には近づけない、そんなクリエイティヴィティの宇宙にずっぽり足を踏み入れてしまった人間の至福と苦悶が、アイドル映画としての枠を崩さずに成立している奇蹟の作品!
ももクロを見る目が大きく変わる。
自身も舞台俳優・演出家である脚本家・喜安浩平と組んだことで、間違いなく近年の本広克行監督作では断トツの出来。また、1ヶ月半スケジュールを割き、じっくり役に入り込んだ彼女たちから女優魂を感じることで、本作を機に世間のももクロを見る目は大きく変わるだろう。確かにアイドル映画としても、青春映画としてもよくできている。だが、一歩引いて見ると、原作でしっかり描かれてた「銀河鉄道の夜」を“オリジナルとして”上演する意味、そして部長が演出家としての才能を発揮する過程があまりに曖昧。それゆえ、元女優の副顧問が最後に取る決断が胸に響いてこない。彼女を演じた黒木華はももクロを喰うほど素晴らしいだけに悔やまれる。