シェル・コレクター (2016):映画短評
シェル・コレクター (2016)ライター2人の平均評価: 4
水中撮影のファンタジックな映像美が出色
美しい海に囲まれた沖縄の小さな島を舞台に、盲目の貝類学者が世間に蔓延する奇病を治していく。なんとも不思議な魅力を醸し出す寓話的な作品だ。
震災後の日本を取り巻く混沌とした空気を漂わせつつ、あくまでも多彩な解釈を許容する懐の深さ。確かにストーリーはかなり不条理で難解かもしれないが、しかし本作にはスノッブで気取ったアート映画とは一線を画す心地よさが感じられる。
特筆すべきは水中撮影のファンタジックな映像美であろう。海の底で椅子に座った主人公が巨大なカメと対峙するシーンなんか、それこそうっとりするほど神秘的。この大自然に身を委ねるような感覚こそ本作の醍醐味と言えるかもしれない。
前衛とナチュラリズムの架け橋
本作鑑賞後にA・ドーアの原作小説(翻訳で40ページ足らずの短篇)を読んだのだが、とても良い映画化だと思った。ケニア沖の孤島を沖縄に移し(そこで米軍基地問題の影が付与される)、学者が貝類の「言葉にならないレベル」の美に惹かれる。自然が生み出すエロス――その裏にべったりタナトスが貼りついている、という世界。「病を治す」神話は世界に数々存在するが、ある種その裏返しだ。
主人公が盲目というのは重要なポイント。映像は触感が志向され、彼の心の中に浮かぶ「すごい青」が基調となる。前作『美代子阿佐ヶ谷気分』では安倍愼一への熱烈なオマージュを見せた監督の坪田義史だが、今回はドーアと魂の底で共振しているようだ。