幸せをつかむ歌 (2015):映画短評
幸せをつかむ歌 (2015)ライター2人の平均評価: 4
これがデミの劇映画遺作っていい感じじゃない?
J.デミは現代アメリカ最重要監督のひとりだが、これは彼の一側面でもある音楽ドキュメンタリストの顔が大きい。メリルが率いるバンドはリック・ローザスやバーニー・ウォレルら鉄壁のコワモテメンバー、なのに演奏するのはレディ・ガガやピンクやU2ってのがイイ(メリルの歌もギターも当然本物)。『メルビンとハワード』など社会からズレた人々を同じ目線で描くのが本領のデミと、どん詰まり女性をリアルに描けばピカイチのD.コディの初コンビ作だが、人生の敗残者を見つめる目は想像以上にハートウォーミング。離婚してボロボロになった娘を演じるメリルの実娘や、80年代のアイドルロッカーR.スプリングフィールドも好演。
理想の母親だけが女性の生き方ではない
家庭よりも自分の夢を選んだ売れない女性ロッカーが数十年ぶりに帰郷し、人生の岐路に立つ我が子らと向き合う。いわば、関係破綻した家族の再生物語だ。
ストーリー展開はかなりベタ。ラストの大団円に至るまで既視感の連続なことは否めないだろう。だが、主人公の設定が従来なら男性のものであっただろうことは見逃せない。これは模範的な母親になれなかった女性の生き様を通して、ジェンダーの役割や家族のあり方について考察する作品でもあるのだ。
ギター片手にボニー・レイットばりのパフォーマンスを披露するメリル・ストリープのカッコ良さ、近年役者としての再生著しいリック・スプリングフィールドの枯れた色気も見逃せない。