LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版 (2015):映画短評
LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版 (2015)ライター2人の平均評価: 4.5
震災で失われた景色を探し求める少年少女の旅路
震災後に全国各地へ散った同級生たちが、小学生時代に埋めたタイムカプセルを掘り出すため、立入制限区域にある福島の母校へと旅する。
NHKで放送された同名特集ドラマに未公開シーンを加えた劇場版。これといって特別にドラマチックな出来事が起きるわけでもなく、ごくごく平凡な少年少女たちの他愛ない戯れや微笑ましい友情を軸としながら、それぞれの心の内側に秘められた震災の深い傷跡を丁寧にすくい上げていく。瑞々しくも情緒に流されないさじ加減が絶妙だ。
石井杏奈をはじめとする若手俳優たちの生き生きとした演技も好感度大。寡黙な少年・勝のタイムカプセル探しに込めた想いには、誰もが心を震わせられることだろう。
NHKの震災作品にハズレなし!
震災後、多くの劇映画が生まれた。志は分かる。だが被災者の苦境を表現する術として売春とか、避難区域に戻るのは認知症の高齢者とか、分かり易く劇的な設定を用いがち。だが虚構ならではの表現方法があるのではないか?
それが本作の「つもり祭り」。福島の人々が放射能も津波はなかった”つもり”、強い絆はある”つもり”と歌い、踊る。リアルな物語に一瞬このファンタジーが入ることで、一層本音と虚しさが浮かび上がる。
ただし、この大胆な演出が出来るのは『その街のこども』など被災者に寄り添い続けてきた井上剛監督だからこそ。風化させないという覚悟と、メディアとしての責務。芸術が出来ることを示していると思うのだ。