SING/シング (2016):映画短評
SING/シング (2016)ライター4人の平均評価: 3.3
『ズートピア』な世界の『のど自慢』
イルミネーション・スタジオ作品ということで、『怪盗グルー』シリーズのハイテンションを期待すると、やや肩透かし。しかも、“『ズートピア』な世界での『コーラスライン』”かと思いきや、すぐにオーディション結果が発表。そんな結果がすべてじゃないという展開も含め、井筒監督の『のど自慢』と化す。さすがは『銀河ヒッチハイク・ガイド』<<<『リトル・ランボーズ』のガース・ジェニングス監督。じつに日本人好みのハートウォーミング人情ドラマな仕上がりだ(自身もトカゲ秘書の声をやりたい放題!)。社会的な暗喩は皆無に等しいが、きゃりぱみゅの楽曲を使い、日本のアイドル文化をツッコむなど、さりげなく毒も注入されている。
豪華声優陣の見事な歌声は必聴!(字幕版)
擬人化された動物たちの住む世界というとディズニーの『ズートピア』みたいだが、こちらは至ってシンプルかつ明朗快活なミュージカル・アニメ。歌唱コンテストを巡る悲喜こもごもの人間模様ならぬ動物模様を軸に、主催者である劇場支配人や6名の参加者たちの、こんなはずじゃなかった今の人生を変えて夢を掴むという一発逆転ドラマが描かれていく。
まさしくハリウッド伝統の古典的なバックステージ物。個性的なキャラクターの面白さは光るものの、既視感のあるストーリーはオリジナリティにも意外性にも乏しい。ただし、豪華声優陣の歌声は必聴。特にスカーレット・ヨハンソンの圧倒的な歌唱力には驚かされる。是非とも字幕版で。
"歌うことの気持ちよさ"が伝染する
"歌うことの気持ちよさ"が徹底して描かれていく。登場人物たちがみな、歌うことに没頭して気持ちよくなっていく。その気持ちよさが、見ているほうにも伝染する。
映画のすべてが、その気持ちよさの実現を目指しているので、設定は歌のオーディションというベタさ、選曲も誰もが知っているヒット曲。色彩もデザインもソフトめなのは、歌だけを際立たせるためだろう。歌と同じように、ストーリー展開も、逃走シーンの映像も、気持ちよいリズムで進んでいく。
声を演じる俳優たちが実際に歌っているので、歌声も聴きどころ。中でもスカーレット・ヨハンソンと「キングスマン」のタロン・エガートンの歌唱力はビックリもの。
音楽、映像、キャラ……いずれもが魅力を放つ快作
懐かしいナンバーから最新ヒットの洋楽までキャラクターがタイトル通り“歌う”、いや歌いまくる! 確かに題名が”売り”を表しているが、それだけでが面白みではない。
町中を視点が駆け巡りキャラ紹介がなされる、そんな冒頭のめくるめく映像に、まず引き込まれる。キャラも魅力的で、父に従わざるをえないゴリラ青年、完璧な家事に疲れたブタの主婦、極度に内気なゾウなど多彩だが、いずれかに観客ひとりひとりが気持ちを重ねられる点がいい。
彼らがクライマックスで歌う曲には各々の心情が投影されているので、音楽の良さも手伝い見ているこちらもアツくなる。個人的には和製EDMを茶化したギャグ・キャラがツボ。