インフェルノ (2016):映画短評
インフェルノ (2016)ライター5人の平均評価: 3.6
ロン・ハワードまつりのトリに相応しい?
売りだった歴史謎解きミステリーは影を潜め、タイムリミット・サスペンスが色濃くなった第3弾。ラングドン教授がジェームズ・ボンド<<ジェイソン・ボーン化し、手持ちカメラ揺れまくりのスピーディーな展開、おどろおどろしいホラー演出など、エンタメ感はハンパない。しかも、“ラングドン・ガール”フェリシティ・ジョーンズの存在感は、『ローグ・ワン』前哨戦というべきものになっているのも嬉しい。ただ、完全に別モノなラストを含め、原作ファンからの支持を得るのは難しい仕上がりに。ロン・ハワード監督作を1年に3本観られる歓びに沸く一方、盟友トム・ハンクスとは、そろそろ肩の力が抜けた作品で組んでほしいと思うのであった。
第3弾はヒッチコック風味のタイムリミット・サスペンス
トム・ハンクス扮する宗教象徴学者ラングドン教授が、今度は世界的な人口増加問題をウィルスによる大量虐殺で解決しようとする大富豪のジェノサイド計画を阻止すべく奔走する。
いきなり事件のど真ん中から物語が始まり、命を狙われ記憶喪失となった教授が、自らの足跡を遡りながらウィルスの在り処を探すという変則的な語り口が秀逸。誰が敵で誰が味方か分からない展開は極めてヒッチコック的だ。
さらに、幻覚症状に襲われた教授が目にする終末世界の光景は、さながら宗教ホラースペクタクル。前作までとは一味違ったタイムリミット・サスペンスの醍醐味を楽しめるが、終盤へ向かって尻つぼみになっていくことも否めない。
今度のラングドン教授はマッドマックス型
病院で目覚めたら伊・フィレンツェ。
ワケが分からぬまま事件に巻き込まれていくラングドン教授と共に、観客も悪夢とサスペンスの世界へ。
『マッドマックス 怒りのデスロード』と同じ、
観客をいきなり映画の世界に放り込む手法で、疾走感や緊張感は半端ない。
冷静に振り返るとツッコミどころも満載なのだが、
鑑賞中は観客に疑問を抱かせるスキを与えないという、アラ隠しには最適な手法だ。
とはいえ、歴史的建造物や名画を再発見する興奮と、
観光名所の秘密を覗き見る楽しさは相変わらず。
ブダベスト・ロケを巧みに組み込んでいるようだが、
いつも観光客で混み混みのべネチアやフィレンツェでよく撮った!と賞賛を送りたい。
ウンチクを抑えてミステリー度とスピード感をアップ!
今回は、文系ウンチク映画ではなく、謎解きサスペンス。これまでのシリーズは、原作小説に盛り込まれていたダ・ヴィンチや聖書などの歴史文化系ウンチクを映画に取り入れようとしていたが、今回はナシ。その結果、展開がスピーディに。また、主人公ラングトン教授が負傷して記憶に曖昧な部分があるという設定で、真相にたどり着くまでのミステリー度がアップ。一方、ウンチクを抑えた代わりに増加したのが、実際の歴史的建造物の美観。フィレンツェのヴェッキオ宮殿、ヴェネツィアのドゥカーレ宮殿、イスタンブールのアヤソフィア大聖堂等がたっぷり映し出されて、これまでのシリーズと同じ歴史と美術の香りを漂わせている。
ショック描写が効いたシリーズ最恐のホラー
ダン・ブラウン原作の“ロバート・ラングドン”シリーズは『ダ・ヴィンチ・コード』も『天使と悪魔』も小説のダイジェスと呼ぶべき映画だった。今回も、そのスタンスは変わらない。
が、ラングドンが見る幻覚がショック描写として機能していることは新鮮な驚きだった。ダンテ「神曲」の一章“地獄篇”のビジュアル化は、疫病と炎のスペクタクル。カットとしてはどれも一瞬だが、一瞬だからこそ戦慄させられる。これはロン・ハワードの演出の妙。
原作と異なる結末は、すでに小説を読んでいる方には賛否が分かれるところだが、それでもゾクゾクさせられるのは映像表現のおかげ。シリーズ最恐のホラー映画と、言い切ってしまおう。